研究領域 | 太陽地球圏環境予測:我々が生きる宇宙の理解とその変動に対応する社会基盤の形成 |
研究課題/領域番号 |
18H04447
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
三好 勉信 九州大学, 理学研究院, 准教授 (20243884)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 大気組成変動 / 大気大循環 / 年々変動 |
研究実績の概要 |
中間圏・熱圏下部領域における一酸化窒素(NO)やH2O・HOXの光化学過程を組み込んだ大気大循環モデルを作成し、NOやH2O・HOXの空間・時間分布を解明するための研究を実施した。まず、NOの光化学過程及び力学による輸送過程を含んだ大気大循環モデルを作成した。このモデルを太陽活動極小期及び太陽活動極大期について、それぞれ2年間の数値計算を実施することに成功した。数値計算結果の解析から、太陽活動変動に伴う中間圏界面付近でのNO濃度の緯度分布や高度分布の様子が明らかとなった。また、冬半球高緯度域については、熱圏下部で生成されたNOが力学による輸送過程により中間圏下部まで輸送される様子の再現にも成功した。さらに、成層圏突然昇温などプラネタリー波の活動が活発になった時期には、NOの下層大気への輸送がより活発になることも再現できた。このように、光化学過程を含んだ大気大循環モデルにより、中間圏・熱圏下部領域における大気微量成分のふるまいを定量的に解析できるようになった。 さらに、H2OやHOXについては、大気大循環モデルに用いる光化学スキームの検討を行い、より現実的なH2O・HOX分布が得られるための光化学反応係数などの検証を行った。H2O・HOXのための光化学スキームについては、大気大循環モデルへの組み込みを行っている途中である。光化学スキームの組み込みは、まだ完成していないので、来年度も引き続き行い、大気大循環モデルにより現実的なH2O・HOX分布が得られるようにする。 中間圏上部から熱圏下部領域では、大気重力波による減速効果が重要であり、平均温度・風速場に大きな影響を与えるので、より正確な大気重力波による減速効果を表現可能な重力波パラメタリゼーションスキームの導入も行った。新たな重力波パラメタリゼーションを導入することで、より現実的な大気循環場の再現が可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NOの光化学過程及び力学による輸送過程を含んだ大気大循環モデルを作成した。このモデルを太陽活動極小期及び太陽活動極大期について、それぞれ2年間の数値計算を実施することに成功した。また、太陽活動変動に伴う中間圏界面付近でのNO濃度の緯度分布や高度分布の様子については、衛星観測結果などと比較した結果、現実的なNO分布が得られていることが確認できた。また、2年間の計算結果について、北半球冬季についてのNOの日々変動の解析から、成層圏突然昇温に伴うプラネタリー波の活発な時期におけるNOの下層大気への輸送についても、現実的な結果が得られていることが分かった。また、高緯度域冬季でのNO分布について、北半球と南半球の違いに注目した解析も実施できた。このことは、光化学過程を含んだ大気大循環モデルの開発にとって大きな前進である。一方で、H2O・HOXの光化学過程を含んだ大気大循環モデルの開発については、予想以上に光化学スキームの検討に時間を要したため、モデルの完成が若干遅れている。この点については、平成31年度に、H2O・HOXの光化学スキームのモデルへの組み込みに、より多くの時間を使うことで、後れを挽回したいと考えている。また、重力波による減速効果をより正確に表現するために、新たな重力波パラメタリゼーションを導入することに成功した。この重力波パラメタリゼーションにより、中間圏界面から熱圏下部における平均温度や風速場がより正確に表現できることになった。より正確な温度場の表現は、光化学反応過程の見積もりにとって重要であり、正確な風速場の表現は力学による輸送過程の表現にとって重要であることが確認できた。この成果については、AGU(アメリカ地球物理学連合)秋大会やCOSPAR(国際宇宙空間委員会)総会で招待講演として発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度には、前年度までに開発された中間圏・熱圏下部におけるH2O・HOXの光化学過程を組み込んだ大気大循環モデルを用いて計算を行い、太陽活動変動によりH2O・HOXの空間分布がどの程度変化するか明らかにする。前年度までに開発された光化学過程のスキームについて、検討を加えたうえで改良を行う。より現実的なHOXの時空間分布が得られるかどうかに焦点を当てて検討を加える。HOXの光化学スキームの見直しや改良を行い、より現実的なHOXの時空間分布が得られるようにする。HOX濃度分布には、大規模波動による輸送の効果や小規模波動・乱流による拡散の効果も重要であるので、大気波動の再現についてもチェックを行う。必要に応じて、渦拡散係数(鉛直拡散係数)を変更し、現実的なHOX分布が得られるように、モデルの改良を行う。 光化学過程を含む大気大循環モデルの数値計算を数年間実施する。まず、太陽活動極小期に対応する太陽紫外線・極端紫外線での数値シミュレーションを実施する。次に、太陽活動極大期に対応する太陽紫外線・極端紫外線での数値シミュレーションを実行する。これらの結果を比較することで、太陽活動極大期に対応するNOやHOXの空間分布について明らかにする。また、数年間の数値計算結果を比較することで、成層圏突然昇温などの大気波動がNOやHOXの空間分布・時間変動に及ぼす影響を調べる。OH大気光に関しては、モデルでえられたOH大気光発光量の見積もりを行い、OH濃度の日々変動と大気波動との関係に焦点を当てた解析を行う。
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