研究領域 | 太陽地球圏環境予測:我々が生きる宇宙の理解とその変動に対応する社会基盤の形成 |
研究課題/領域番号 |
18H04452
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研究機関 | 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群) |
研究代表者 |
渡邉 恭子 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群), 応用科学群, 准教授 (10509813)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 太陽フレア放射 / デリンジャー現象 |
研究実績の概要 |
今年度はまず、2017年9月に発生して宇宙天気現象としてメディアなどでも話題になった、活動領域12673で発生した一連の太陽フレアとその地球電離圏への影響の検証を目指した。この活動領域では4例のXクラス、20例のMクラスフレアが発生していたが、特に2017年9月6日に発生したX9.3クラスフレアとその前後の太陽活動について検証を行った。解析対象のフレアについて、フレアループの長さなどの幾何学的構造を観測データから同定し、得られた値を入力値として、1次元流体数値シミュレーション+輻射計算によるモデル計算で太陽フレア放射(特にデリンジャー現象を引き起こす元となるX線から紫外線のスペクトル)の再現を行った。 上記の数値計算より得られた結果と、太陽フレア放射のモデルとして現在広く用いられているFISMによる放射計算の結果を、SDO/EVEによる本フレアの観測結果と比べたところ、50nm以下の短波長側では本研究の結果の方が観測結果をよく再現している傾向が見られたが、長波長側ではFISMの方が観測結果をよく再現していることが確認された。また、フレアのライン放射が多く集まっている波長帯では、両方とも実際の観測値を再現していないこともあり、今後、本研究の結果が観測値をより再現するパラメータの探索を行ってゆく。 また、太陽フレア放射を特徴付けるパラメータを同定するために、太陽フレア多波長観測データの統計解析も進めた。特にフレアループの形状がその放射へ与える影響を知るために、フレアリボン間距離とGOES軟X線のフレア放射の継続時間との関係を調べたところ、これらの間に正の相関が見られた。フレアのリボン長もフレアの継続時間と正の相関関係があったが、その相関はフレアリボン間距離のそれと比べると、あまり良くなかった。これらの結果より、フレア放射の継続時間はフレアループ長が支配的であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、当該年度に行う予定であった2017年9月6日に発生したX9.3クラスフレアの解析については、数値計算による放射スペクトルの再現まで行った。得られたスペクトルを、情報通信研究機構において運用されている大気圏・電離圏結合全球モデル GAIA (Grond-to-topside model of Atmosphere and Ionosphere for Aeronomy; Jin et al., 2011) に入力したところ、実際に発生したデリンジャー現象よりも大きな影響が出たことが確認されているが、太陽フレア放射スペクトルを実際の観測値と比較することと、デリンジャー現象についても計算モデルと観測値とを比べることができており、これから多くのイベントについて観測値との比較を行うための道筋を作ることができた。今後、実際の観測に合うように、太陽フレア放射の入力値のカスタマイズを行うが、観測値に合うためには熱量の入力値が重要であると目測がついているため、概ね順調であると判断した。 また、統計解析を行うための太陽フレア多波長観測データの収集・解析も順調に進めることができた。収集した観測データより、数値計算の入力値となるパラメータを同定できているため、観測結果から構築されたフレアモデルはほぼでき上がっていると判断できる。今後、このパラメータを用いて数値計算を行い、実際の観測値との比較を行ってゆくが、使用する数値計算のコードは現在使用できているため、あとは計算するだけで結果が得られる。また、比較対象の観測結果だけでなく、他のモデル計算値であるFISMのデータも入手できている。今後、これらの比較を行い、GAIAでデリンジャー現象の検証を行う目算もついているため、進捗状況は「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
SDO/EVEで観測された(数値計算の答えがある)54例のフレアイベントについて、観測されたフレアループ長(リボン間距離)を入力値として、数値計算による再現実験を行う。観測データを再現できる(または観測データに近い)フレア加熱量が同定でき、またこのフレア加熱量とフレアの基本パラメータとの関係性を見いだすことができれば、フレア放射スペクトルを再現するモデルを構築できる。 また、上記で得られた太陽フレア放射スペクトルを用いて、地球電離圏への影響についても検証を行う。開発した太陽放射スペクトルモデルを、情報通信研究機構において運用されている大気圏・電離圏結合全球モデル GAIA (Grond-to-topside model of Atmosphere and Ionosphere for Aeronomy; Jin et al., 2011) に入力し、フレア時の電離圏D領域の電子密度、さらに短波の吸収量を計算する。これを過去に実際に起こったデリンジャー現象と比較することにより、太陽フレア放射モデルの精度を検証する。観測値を再現できる条件を同定することにより、電波の吸収への寄与、つまり電子密度の増大への寄与が最も大きい紫外線・X 線の波長帯とその時間変化を明らかにすることができる。
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