公募研究
水蒸気が下層から上層に鉛直輸送されるメカニズムを明らかにするため、新たな放射計算コードJACSOPARを開発した。希薄な火星大気環境下で計算できるまでに開発が進み、加えて、水蒸気を輸送するキャリアとしての役割を担うとされているエアロゾルの粒径やその分布についてもスペクトルから導出することが可能となった。OMEGA/CRISMなど実際の観測スペクトルからの物理量の導出する試みを今後実施予定である。MAVENデータ解析から、下層大気で励起された大気重力波が超高層にまで到達して背景場を揺さぶり、また散逸大気の組成比が一年を通じて一桁以上も大きく変動することを明らかにした。これらは下層大気現象が超高層に大きな影響を及ぼし、効率的かつ高速に物質やエネルギーが輸送される可能性を示唆している。高高度70-90kmにエアロゾル遊離層を新たに発見し、加えて同高度がモデルでは再現できないほど異常昇温を起こしていることがわかった。この熱構造は、中間圏で水蒸気遊離層を形成することを可能とし、新たな水散逸パスの重要な中間貯蔵庫となっていることが明らかになった。この異常昇温は、全球ダストストーム時に実施した独自地上観測でも確認されており整合的な結果が得られている。全球砂嵐時に伴う水蒸気の超高層大気への高速輸送・爆発的増大過程をTGO観測で明らかにした。同様の突発的高速輸送を探るため、MEX/OMEGAデータを統計処理し水蒸気や関連物理量のクイックテーブルを作成し、統計処理の準備を進めた。MMX搭載MacrOmegaのBBMを用いた要素試験を実施することで開発を推進した。音響工学フィルタの透過特性・熱輻射成分の除去方法の検討など、フォボス・火星観測に重要な最適化のための評価試験を実施することができた。
2: おおむね順調に進展している
新たな放射コードJACOSPAR開発は順調に進んでいるものの、反転解析の効率的な収束方法が鍵であることも明らかになり、次年度の課題である。TGO観測も順調に進み初期成果も出版された。青木研究協力者が中核となって今後更なる詳細解析を進める予定であり、代表者と協力して周回機をまたぐ複合的な研究を進める。大気重力波解析結果も、数値モデルとの不一致が課題であり投稿も不採択となった。現在は観測結果を中心にまとめなおして再投稿の準備を進めている。また、新たな発見となった、水輸送の鍵となる中間圏の熱構造・エアロゾルに関する研究も、現在学術雑誌への投稿を目指して準備を進めている。均一圏界面研究について、観測精度の高い高度領域に解析を絞ることで、散逸大気の貯蔵庫である下部熱圏の大気組成水平分布とその季節変化を初めて明らかにすることができた。OMEGAを用いた水蒸気の水平分布に関する統計解析の準備も順調に進んでおり、該当する可視域の撮像データも整備しつつある。MMX搭載MacrOmega開発にも従事し、現在得ることのできない火星全球の水循環観測のための準備を進めている。得られた音響工学素子の透過特性も期待通りの性能がでており、実測された透過関数を用いることで導出する物理量の高精度化が検討できる。熱輻射成分についても十分な精度で較正計測できており、将来の実環境試験につながる価値の高い室内実験結果が得られている。
JACOSPARを用いてOMEGA,TGO/NOMAD観測スペクトルのリトリーバルを試みる。新たに発見された水蒸気・エアロゾルの遊離層がどのように形成・発展・消失していくのかを明らかにすることで、水蒸気が上層に輸送・供給されるメカニズムに迫る。MAVENによる中層大気研究を更に推進し、下層と上層の結合過程に迫る。OMEGAによる統計解析という視点に加えて、TGOや関連研究の最新結果を受けて、より局所的・高速な水輸送イベント解析を実施する準備を進める。観測から下層大気における乱流拡散係数・超高層における分子拡散係数に制約を与え、同グループで開発を進めている数値モデルに反映させることで、水輸送・循環への寄与を評価する。MMX開発では、フォボス擬似サンプルを用いたより詳細な熱輻射除去手法の確立を目指す。火星水蒸気・エアロゾル相互作用を解明するための観測に必要な波長選定・運用立案を具体化する。
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