研究領域 | 水惑星学の創成 |
研究課題/領域番号 |
18H04460
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
奥地 拓生 岡山大学, 惑星物質研究所, 准教授 (40303599)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 中性子準弾性散乱 / 非晶質ケイ酸塩 / 水 |
研究実績の概要 |
地球の水は、誕生期に微惑星などから供給された後に、海洋と内部に分配され、そこで輸送され、貯蔵されてきた。本研究の目的は、地球の起源物質中における、水の微視的な輸送現象を、中性子散乱の手法によって調べることである。最近の地球内部の水素同位体の解析の結果によれば、初期地球に供給された水の一部は、原始太陽系星雲の水分子を起源とする可能性がある。星間空間固体の主成分である非晶質のケイ酸塩が、原始太陽系星雲に存在したならば、そこへの水分子の吸着や水和は結晶よりも起こり易いと考えられる。このような水分子が微粒子の内部へと浸透してゆく微視的な過程を解析することを通して、それが微粒子に捉えられた上で、最終的には地球へと輸送され得るのかどうかを調べる。 誘導熱プラズマ装置で合成した平均粒径70nmのMg2SiO4組成の非晶質ケイ酸塩に水蒸気を吸収させて、含水非晶質ケイ酸塩の試料を合成した。J-PARC物質・生命科学実験施設の高エネルギー分解能非弾性散乱分光器・DNAを用いて、この試料の中性子準弾性散乱を行い、試料内の水素原子のサイト間跳躍の距離と頻度を解析した。初年度は特に、試料の結晶化が起こり始める条件である、温度350K以上の条件における計測と解析を進めた。その結果、水素拡散の時間・空間スケールと活性化エネルギーが異なる、二つの拡散過程の存在を確認した。異なる局所構造中における水分子の拡散と考えられるこれらの二つの過程は、いずれも結晶質ケイ酸塩媒体内の水素の拡散よりも高速かつ活発なものであった。つまり、結晶化しつつあるケイ酸塩の微粒子に吸着された原始太陽系星雲の水分子は、微粒子の内部に速やかに浸透した上で、含水鉱物の結晶化時にその構造の内部に捉えられることが充分に可能である。その後、このような水素を含む物質が、成長する地球へと集積することも可能であろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度においては、中性子準弾性散乱の計測時の試料セルの安全性と安定性を充分に確保しつつ、計測の温度を上昇させる作業を順調に進めることができた。その結果、温度350K以上での高水蒸気圧条件における、密封型の試料セルを用いた安定な中性子準弾性散乱計測が実現されており、初年度の研究目的をほぼ達成することができた。解析の結果から、アモルファスケイ酸塩の吸水・保水・脱水プロセスの記述に本質的な過程を評価する手法もほぼ確立することができた。準弾性散乱データに対応する温度350K以上の条件で保持した試料の粉末X線回折パターンの解析から、吸水に伴う微視的な構造の変化を調べる作業も進展した。これらの試料の透過電子顕微鏡観察により、粒子の膨張や結晶度などの形態的特徴の変化を捉える作業も開始した。以上の進捗があったので、研究の状況はおおむね順調と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
高温条件で結晶化が進行中の試料の含水構造の変化を、赤外吸収分光によっても観察した上で、中性子準弾性散乱の結果と対応させる。透過電子顕微鏡による観察をさらに本格的に進め、結晶化度の変化や層構造の生成などを詳細に調べる。 中性子準弾性散乱法では、物質中の水素原子核によって非干渉性散乱された中性子の運動量とエネルギーの変化を、非常に高いエネルギー分解能で計測した結果を解析することにより、水素のサイト間跳躍の距離と頻度を求める。我々は、他の研究課題の成果を含む過去の実績として、650Kまでの温度条件におけるケイ酸塩物質中の水素の準弾性散乱の計測を、これまでにDNAにおいて実現してきた。今後の研究の推進のための技術的な方策として、過去に使ってきた素材よりもはるかに耐熱性の高い材料を用いた試料セルを新たに開発・導入することで、さらに高温の条件での準弾性散乱の計測を実現してゆく予定である。
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