研究領域 | 水惑星学の創成 |
研究課題/領域番号 |
18H04465
|
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
須田 好 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 研究員 (00792756)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 揮発性脂肪酸 / 真空凍結乾燥 |
研究実績の概要 |
揮発性脂肪酸の安定同位体組成を含む地球化学的なデータは、それに関わる化学反応や物質循環を解明する上で有力なツールとなるが、分析上の問題から未だデータが限られている。そこで本研究では、ガスクロマトグラフィーを利用した汎用的な揮発性脂肪酸の濃度・炭素同位体比分析法を確立することが目的である。また低濃度試料分析を実現させるためには、分析前処理として試料の濃縮を行う必要があり、本研究ではコンタミネーションのリスクを低減した濃縮法の検討・評価を行う。本年度は、主に前処理作業に用いる装置の設計・製作と、市販の揮発性脂肪酸試薬を用いた予備実験を計画した。 まず初めに、試料を大気に曝すことなく真空凍結乾燥させるシステムの試作を行った。市販の真空凍結乾燥機は大気開放された構造で、試料の出し入れ時や装置内が十分に減圧状態になるまで、試料は大気に曝された状態である。大気中にも微量の揮発性脂肪酸が含まれており、それらはコンタミネーションの原因となりうる。しかも真空凍結乾燥を行う際には試料を強アルカリ性にするため、より大気成分を吸収しやすい条件になっている。そこで、サンプル容器を真空ラインに直結できるような真空凍結乾燥システムを作った。昇華速度および試料部温度に関する実験を行った結果、常温のままでは真空凍結乾燥中に試料が融けてしまうことが分かった。今後、昇華温度と供給される熱量(試料部の温度)のバランスを取るために、試料部の冷却や配管方法の見直しを図る必要がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は、真空凍結乾燥システムの構築とそれを用いた予備実験を行う予定であったが、システムの構築に難航したため試薬を用いた予備実験まで至らなかった。 本年度はまず始めに、試料を大気に曝すことなく真空凍結乾燥させるシステムを試作した。市販の冷却トラップと真空ポンプに、サンプル容器(ガラスバイアル瓶+ブチルゴム栓+アルミシールキャップ)を直接接続できるよう、シリンジ針の付いたポートを配管した。また、配管内の圧力をモニターできるようキャパシタンスゲージを取り付けた。試しに凍らせた純水試料を真空凍結乾燥させたところ、室温条件下では30分程度で試料が全て溶けてしまった。そこで、試料部を氷水で冷却した条件下で再度実験したところ、若干の融解は観測されたものの、6時間後も氷の状態を保っていた。試作のシステムでは、「昇華速度」に対して「供給される熱量」が大きすぎるために乾燥中に試料が融けてしまう問題があると分かった。原因として、配管内の径が細いことで試料部の排気速度が小さくなっていることが考えられる。今後の改善策として、配管の見直しと、試料部を常時冷却させるシステムを導入することを計画している。 以上のことより、現在までの進捗状況を「やや遅れている」と評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
まずは前年度に作成した真空凍結乾燥システムの改良を行い、乾燥中に試料が融解しない条件を整える。具体的な方策としては、配管径を太く短くし、バルブは圧力損失の小さいものに変更する。さらに、試料部を常時0℃未満に保てるよう冷却装置の導入を検討する。 次に、コンタミネーションのリスクを低減した濃縮法として、水酸化カルシウムCa(OH)2のpH調整試薬としての評価実験を行う。真空凍結乾燥による濃縮法では、揮発性脂肪酸の蒸発による損失を防ぐために水溶液試料を強アルカリ性条件(pH = 10~12)にして行う。これまでpH調整の際には水酸化ナトリウム(NaOH)と水酸化カリウム(KOH)を使用するのが一般的であった。しかしながら、上記の試薬は空気中の成分(水、二酸化炭素、揮発性脂肪酸など)を即座に吸収する性質を持ち、また吸着したコンタミネーションを除去することが困難である。そこで、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)をpH調整試薬として用いる。Ca(OH)2は融点が高く、加熱処理により有機物を除去することができるはずである(通常、有機物を除去する際には450℃で5時間加熱する)。 上記の一連の操作について、それに伴うバックグラウンドを定量的に評価する。また、同位体比が既知の標準試料を用いて、分析操作に関わる同位体分別の程度を見積もる。その後確立した手法を、天然の水試料(ギ酸、酢酸濃度:<10 uM)に適用する計画である。
|