公募研究
生命が利用可能な環境中のエネルギーに関する知見は、地球の生命圏および他天体の潜在的生命活動を理解するための基礎資料となるが、近年、地球海洋や太陽系氷衛星内部海の熱水環境においては、岩石水反応を介した自発的な発電現象とその電気エネルギーを利用した生命活動の可能性が指摘された。そこで本研究は、熱水環境において電気利用生命活動が存在し得るか探るために、当該環境での電気エネルギー生成ポテンシャルを推定するとともに、そのような電気化学環境場を利用する生命活動の実態を、地球海洋の微生物生態系をモデルとして検証する。本年度は、熱水系で生じる電気エネルギーの生成ポテンシャルを推定するために、熱水-岩石-海水反応系を模擬した室内電気化学実験系を立ち上げ、鉱物の電気化学触媒特性を解析するとともに、熱水系を燃料電池系として捉え燃料電池発電評価実験を行った。具体的には、導電性岩石・鉱物を電気回路として、還元的な熱水中物質の酸化反応と酸化的な海水中物質の還元反応とが共役した自発的な電流(電気エネルギー)生成反応が起きるという仮説に基づき、この熱水電気エネルギー生成系を天然の燃料電池と捉えたモデル実験系を立ち上げ、燃料電池の性能解析手法を応用してこれを評価した。水熱合成した合成熱水模擬鉱物と地球海洋の深海熱水系から採取されたパイライト・カルコパイライトが卓越した天然熱水硫化鉱物を電極触媒として、熱水酸化反応(アノード反応)と海水還元反応(カソード反応)のそれぞれについて、3電極ボルタンメトリー解析で電気化学触媒特性を解析した上で、両極を外部電気回路で導線した燃料電池実験系で各条件での電力生成能を含めた電力生成特性を解析した。そして、これまで熱力学平衡計算予測から重要性が指摘されてきた熱水・海水のpH条件と電気エネルギー生成特性の関係について、速度論を含んだ知見を与える一連の実験データを取得した。
2: おおむね順調に進展している
当初計画したように、硫化鉱物を電極触媒としたハーフセルでの電気化学触媒特性解析実験系、およびホールセルでの発電実験系を立ち上げ、硫化水素/硫化水素イオンを電子供与体、溶存酸素を電子受容体とした検討で、熱水・海水のpH条件と電気エネルギー生成特性の関係を示す実験データの取得に成功したため、おおむね順調に進展していると判断した。ただし、他の電子供与体・電子受容体を用いた検討では有意な電気化学反応を確認できなかった。これらについては昇温・昇圧条件下では反応を捕捉できる可能性があるが、本年度に新たに昇温・昇圧環境を再現する実験系を作ることができなかったため、次年度に引き続き検討する。
熱水-岩石-海水反応系での電気エネルギー生成ポテンシャルを推定するために、これまでに引き続き、複数種の合成熱水鉱物について電気化学触媒特性の評価と燃料電池反応評価実験を行う。さらに、温度・圧力条件を変化させた電気化学実験系を立ち上げ、昇温・昇圧条件下での電気化学反応特性を検証する。また、これらの実験で推定された電気化学環境下で生成した電気エネルギーを利用する生命活動が存在し得るかを検証するために、地球の海洋において、当該電気化学環境を再現した人工電極をモデル環境とした微生物集積培養実験を行い、電気化学環境と微生物生態系の関係を解析する。
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