公募研究
本研究は、高分子のトポロジーに由来する物性が相分離構造形成・ネットワーク化によって増幅されるという発見に基づき、本増幅効果を発現する環状高分子が作り出す超分子系を探索した。さらに、数理学解析により構造と物性・機能を相関させ、新奇機能材料の系統的開発を行った。これは、トポロジーの効果増幅を発現する高分子系を拡張し、数学的解析に基づいて新奇機能材料の系統的に開発するものである。具体的な本年度の成果として、構造欠陥の全くない完全共役型環状ポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)の合成に成功し、溶液中での挙動や光電子物性において環構造に特有な性質を見出したことが挙げられる。また、構造欠陥のない完全共役型P3HTについて更なる特性の探索ならびにコンフォメーションに依存する物性変化の評価を通してトポロジー効果に起因する性質の解明を行った。そして、これらの結果の論文発表を行った(Macromolecules 2018, 51, 9284-9293)。加えて、招待講演等においてこれらの結果を発表している。また、合成した環状P3HTの応用展開として、単層カーボンナノチューブとの複合化の検討を行った。これによって、P3HTがカーボンナノチューブに貫通した構造で複合化することにより、環状P3HTの主鎖の捻じれを抑制し、同一平面上に安定させることで無限の有効共役系の実現が期待される。さらに、環サイズに依存した物性変化の評価において新奇性質の探査を行った。
2: おおむね順調に進展している
本研究期間において、構造欠陥のない環状P3HTの合成法の開発に成功した。つまり、2-bromomagnesio-3-hexylthiopheneと[1,3-bis(diphenylphosphino)propane]nickel(II) dichloride(Ni(dppp)Cl2)の金属交換反応により、まず直鎖状P3HTを合成した。次に、この直鎖状P3HTを開始剤として2-bromo-3-hexyl-5-chloromagnesiothiopheneのGRIM重合を行った。続いて、得られた直鎖状P3HTをsec-BuLiによって両末端のリチオ化を行った後、trimethyltin chlorideにより両末端にトリメチルスズ基を有する直鎖状P3HTを合成した。最後に、希釈条件下でPdCl2(PhCN)2を用いた分子内ホモカップリングにより環化反応を行った。得られた生成物の構造は1H NMR、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)およびMALDI-TOF MSによって測定した。さらに、得られた直鎖状および環状のP3HTを用いて、蛍光スペクトル測定により、All Head-to-Tail型環状P3HTと1箇所だけHead-to-Head結合を有した環状P3HTとの光電物性の比較を行った。その結果、0-0遷移禁制など環状の全共役構造に起因する興味深い物性が観測された。このように合成法の確立とトポロジーに依存した興味深い物性を見出し論文発表を行ったため、研究は概ね順調に進展していると考える。
今後、確立した合成手法により種々の分子量の直鎖状および、環状P3HTを合成する予定である。評価法として、SECより分子量と分子量分散度を求め、分子量依存性の評価に十分な重合制御を達成する。さらに、物性評価法として、光散乱法による絶対分子量、粘度、流体力学体積の測定や可視吸収スペクトル測定を行い、分子量依存性を検討する。また、本年度の研究において22量体Callに対する温度変調蛍光スペクトル測定を行ったところ、220 Kに降温すると光励起状態における平面構造化を示す0-0遷移禁制化が強まり、300 Kに昇温しても保持されるという興味深い現象が確認された。この現象を種々のサイズの分子量の環状P3HTを用いて確認する。加えて、環状とカーボンナノチューブとの複合化について、様々な条件で超音波照射を用いての複合化を試み、高解像度透過型電子顕微鏡(TEM)での観察を行う予定である。また、環状P3HTおよびカーボンナノチューブのサイズや、複合化手法についてさらに検討を進めることで、貫通構造の実現による光電変換物性の評価を目指す。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 5件、 招待講演 4件) 図書 (1件)
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