本研究課題において、環状高分子とカーボンナノチューブ(CNT)との複合化・ネットワーク化による高分子トポロジーに立脚した高分散安定化現象を、領域内の共同研究を通して数学・情報学的基盤に基づき解明し、その応用として新規材料の開発を試みた。 まず、完全共役構造を有する環状Poly(3-Hexylthiophene)(P3HT)の合成に成功し、これがCNTに対し優れた分散安定性を付与することを見出した。さらに、P3HTのトポロジー(直鎖または環)に依存したCNTの分散安定化を定量的に評価するために、領域内共同研究によってTEM画像の情報学的解析を行った。つまり、P3HTのトポロジーに依存したCNTの分散安定化を、畳み込みニューラルネットワークを用いた機械学習により評価する方法を見出た。ここで、環状高分子がナノ構造体を高分散安定化する原理の解明と新奇機能材料開発のために、CNT上のP3HTネットワークおよび複合材料中のCNTネットワークの階層構造解析として、CNTとP3HT複合体のTEM画像の分析に際して、その分散性を目視で見積もり、P3HTのトポロジーを評価する手法には客観性と正確さに限界があった。そのため、畳み込みニューラルネットワークによる機械学習を用いて、中程度の精度(62~80%)ながら画像から構成成分(直鎖状P3HTまたは環状P3HT)を見極める手法を開発した。この手法の実用化と汎用化に向け、P3HTの分子量やCNTの直径を変化させて同様のTEM画像解析を行い、これらの要因がどのように解析精度に影響するのか精査した。また、CNTと環状P3HT複合構造の高分解能TEMを測定したところ、CNTを構成する炭素原子も確認できるほど分解能で、高分子1本1本が観察できた。 さらに、本研究期間の成果として1本の高分子鎖に複数の異なる官能基を導入し、その折りたたみ様式を制御することで異なる2環状トポロジー(8の字型、θ型、および手錠型)を選択的に構築した。
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