研究領域 | 次世代物質探索のための離散幾何学 |
研究課題/領域番号 |
18H04478
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
桂 法称 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (80534594)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | トポロジカル相 / トポロジカル不変量 / マグノン / 機械学習 / Kitaev模型 |
研究実績の概要 |
当該年度の主な成果として、以下の2つに関するものが挙げられる。(1)マグノンスピンホール系におけるZ2トポロジカル不変量、(2)相互作用するマヨラナ・フェルミオン系の基底状態とトポロジカル数。
(1)磁性体におけるマグノンの熱Hall効果が理論・実験両面から盛んに研究されている。また、スピンホール効果のマグノン系における対応物も理論的に提案されている。しかし、ボゾン系では時間反転対称性がKramers対の存在を保証しないことから、この系の相をトポロジカル不変量によって特徴づけることは自明ではない。本研究では、このような系においても、擬時間反転対称性と呼ばれる対称性が存在すれば、その対称性に基づいてKramers対や、マグノンスピンホール系のZ2トポロジカル不変量を定義可能であることを示した。また、2つのマグノンスピンホール系のモデルを構築し、トポロジカル数と系のヘリカルエッジ状態の有無が一対一対応することを示した。 (2)1次元p波超伝導体の模型であるKitaev模型は、そのトポロジカル相でマヨラナフェルミオンの端状態が現れることから注目を集めている。桂は以前、このKitaev 模型に最近接相互作用を導入した模型について調べ、基底状態が厳密に求まる場合があることを示している。当該年度は、この模型を非一様なオンサイト・ポテンシャルを含む場合に拡張し、この模型についても、(i) 基底状態(周期系)のトポロジカル数が非自明であること、(ii) 縮退した2つの基底状態の厳密な表式、(iii) エネルギーギャップの存在、(iv) 縮退した2つの基底状態の間を結ぶマヨラナ演算子の具体形、などを明らかにした。
その他にも、機械学習による乱れたトポロジカル超伝導体の相分類、非エルミートなKitaev模型とその端状態に関する研究などを行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の2つの大きなテーマは、1.マグノン系のトポロジカル物性、2.乱れや相互作用のある系のトポロジカル不変量、である。当該年度は、それぞれについて一定の進展があった。 テーマ1の結果は、マグノン系においても適切な対称性を考えれば、Kramers対が存在することが証明でき、またそれに基づいて、電子系の場合とパラレルにトポロジカル不変量を定義できることを初めて明らかにしたもので、意義のある結果である。また、この結果はマグノン系に限らず、フォノン・フォトンなどのボゾン系にも適用可能である。実際に、我々が論文を公表した直後から、他分野の研究者からもコンタクトを受けており、各所からセミナーの依頼も多数受けている。
テーマ2については、特殊な場合ではあるが、相互作用がありかつ非一様な電子系の基底状態が求まり、かつトポロジカル数を厳密に計算することができた点は興味深いと考えている。また、エネルギーギャップの上限・下限や磁場中XYZ・XXZスピン鎖との関係なども明らかになっており、数理物理学的観点からも意義のある結果であると考えている。
テーマ2での乱れのある場合についての進展は、予定していたトポロジカル結晶絶縁体や準結晶における乱れの効果についての研究は遅れている。一方、テーマ1については、3次元系への拡張も既に進展している。したがって、全体としては、おおむね順調に進展している、と考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度も引き続き次の2つのテーマに関する研究を遂行する。
テーマ1:マグノン系のトポロジカル物性 昨年度に完成した、マグノンスピンホール系のZ2不変量による特徴付けに基づいて、次の2つの方向性での研究を行う。(i) 3次元トポロジカル絶縁体のマグノン系でのアナロジーについて考察する。具体的には、ダイアモンド格子上の各サイトに、反強磁性相互作用するスピンが2つずつある系を考える。ここでさらに、適切な擬時間反転対称性の存在を仮定することで、Z2不変量を定義する。また、これらの系におけるギャップレスの表面マグノン状態とその特徴について詳しく解析する。(ii) カゴメ格子上のスピン液体系を念頭に、Schwinger bosonによる定式化を用いてZ2スピン液体相のZ2不変量を用いた特徴付けを試みる。また、スピンギャップ系(トリプロン系)においても、同様の解析を試みる。 テーマ2:乱れや相互作用のある系のトポロジカル不変量 本年度は、高次トポロジカル絶縁体・超伝導体におけるコーナー状態やトポロジカル結晶絶縁体に乱れを導入した場合に、その安定性や特徴付けを調べる。具体的には、乱れの強さや系のパラメターについての相図を、転送行列法などの従来的手法や機械学習を用いた手法により解析する。特に、乱れが結晶の対称性を破る場合と破らない場合で、どのような違いが現れるかを明らかにする。また、これらの相のトポロジカル不変量による特徴付けも探る。さらに相互作用のある場合については、昨年度Berry位相による特徴付けについて進展があった。これを踏まえ、相互作用のある系のトポロジカル相の新たな特徴付けを試みる。さらに、可解模型や不等式などの数理物理的手法を用いた考察も行う予定である。
|
備考 |
研究室のホームページにて出版論文情報、講演資料等を公開している。
|