当該年度の主な成果として、以下の2つに関するものが挙げられる。(1)マグノンのトポロジカル相とZ2トポロジカル不変量、(2)遍歴ボゾン系における対称性に守られたトポロジカル相。
(1)磁性体中の素励起であるマグノンのトポロジカル相について、昨年度から継続して研究を行った。特に、昨年度、電子系におけるスピンホール効果のマグノン系における対応物について考察し、この系がZ2トポロジカル不変量によって特徴づけられることを見出した。マグノンのようなボゾン系においてこの不変量を定義するには、擬時間反転対称性と呼ばれる対称性が重要となるが、当該年度は、このような対称性をもつ系の3次元への拡張を試みた。その結果、マグノン系についても電子系と同様に、相を特徴づける4つのZ2不変量の組を定義することが可能であることを明らかにした。この不変量に応じて、(i) 強いトポロジカル相、(ii)弱いトポロジカル相、(iii)自明相の3つの異なる相が現れるが、特に(i)ではギャップレスの表面状態が(奇数個)現れる。また、この表面状態の物理的帰結として、表面に磁場を印加することにより引き起こされる熱ホール効果についても議論した。 (2)スピン自由度をもつ遍歴ボゾン系の対称性に守られたトポロジカル(SPT)相についての研究を行った。特に、デルタ鎖と呼ばれる、平坦なバンドをもつ格子上のF=1 Bose-Hubbard模型において、SPT相の典型例であるHaldane相が存在することを、解析的・数値的手法を総合的に用いて示した。特に、特殊なパラメターについては、基底状態が遍歴系でありながら行列積状態で書き下せることを明らかにした。この基底状態の波動関数の構造は、他の格子や2次元以上への拡張も可能であり、今後の進展も期待される。
その他にも、散逸のある量子多体系のマヨラナ・フェルミオンを用いた解析などの研究を行った。
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