研究実績の概要 |
時空間的局所的に作用可能な外部刺激は、樹脂や接着剤の硬化に用いられてきた。しかし、溶媒を必要とせず外部刺激で軟化と硬化を繰り返す有効な材料はほとんど報告されていない。本研究では、この課題の解決に高分子トポロジーの組換えが有効であると考え、環状および網目状高分子の分子鎖切断・再形成に立脚した高分子の物性制御を目指した。 先ず、分子量の揃った末端2,4,5-トリフェニルイミダゾール(ロフィン)型直鎖状ポリジメチルシロキサン(PDMS)を合成し、ロフィンの酸化によるトリフェニルイミダゾリルラジカル(TPIR)の生成とそれに次ぐTPIRの自発的二量化を経てヘキサアリールビイミダゾール(HABI)を形成させた。また、生成物である主鎖中にHABIを持つ光応答性環状PDMSを、工業化されている反応の組合せのみによって市販の安価な試薬から大量に合成する方法論の確立にも至った。その結果、環状-直鎖状間のトポロジーの光変換は液状高分子の流動性を大幅に変化させることを突き止め、前例のない高分子物性制御法として提案することが出来た。この方法論によれば、高分子のトポロジーを最小構成単位にまで繰り返し初期化できることから、我々は分子形状初期化(T-rex: topology-reset execution)法と名付けた。さらに、網目状-星型間のトポロジーの光変換に立脚して、網目状物質の粘弾性を固体状態のまま変化させることにも成功した。 これらの研究成果は、今後、数学と物質科学分野の更なる邂逅に寄与できると考える。一方で、本研究で開発された流動性を光制御可能なオイルや光応答性粘着剤は、応用面においても従来材料の問題点を解決する可能性が高い。さらに、工業的合成法に基づいて安価な原料のみから合成する方法論の開発にも成功したため、比較的早期の実用化を期待できる。
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