公募研究
低温走査トンネル顕微鏡(STM)を用いたトンネル分光イメージングは、二次元表面の欠陥等で散乱・干渉する電子の波を捉え、物質内の電子やその電子が収まっているバンド構造の性質を明らかにする手法である。この手法は、フェルミ面やバンドの構造を極低温・強磁場でも観察できることから、角度分解光電子分光と相補的な測定手法として、その重要性は高い。一方でその測定は長ければ一週間にも及び、STMの高い安定性と高騰を続ける液体ヘリウムを大量に必要とする。そのため、現状では国内でもごく限られた実験室でしか測定を行うことができない。そこで我々は、この測定の高速化を進める研究を行ってきた。これまで、バンド内の単一のエネルギーにおいて観察された電子波の実空間画像から、データ点をランダムに落とし、スパースモデリングを用いて逆問題を数値的に解いて波数空間の干渉パターンを再現することに成功している。この結果は、少なくとも数値実験の範囲内では、1/9のデータ(1/9の測定時間)で同じ情報を獲得できることを意味している。そこで本研究ではこの結果を踏まえて、測定点をランダムに間引いた実測定プログラムの開発を行った。また、それと並行してスパースモデリングと機械学習を用いて、干渉パターンだけでなくバンド構造まで再現する解析手法の開発を行った。開発した実測定プログラムを用いた実験では、単純なバンドを有するAu(111)表面を試料として用いて行った。生成した乱数を用いて測定点の取捨選択を行い、少しずつ測定点を減らしながら測定を行った結果、1/4までデータを減らしたランダム測定を安定に行うことに成功し、フルに測定したデータと同じ情報が得られることが分かった。更に、スパースモデリングと機械学習を用いて最適化を行うことで、ランダム計測によって増大するノイズが除去された高分解能の信号が復元できることが明らかになった。
令和元年度が最終年度であるため、記入しない。
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