研究実績の概要 |
効率的なエネルギー利用を目指した電子スピンが重要となる熱電変換現象の一つに、異常ネルンスト効果がある。これは、熱勾配によって生じた電流が、電子波動関数のトポロジー:有効磁場(波動関数の曲率)に起因して曲がる熱誘起の異常ホール効果である。この異常ネルンスト効果をどのように増大させるかは自明ではない。本研究では、密度汎関数法に基づく第一原理計算手法を用いて、具体的な物質、特にナノスケールのスピン構造をもつ物質の磁気安定性と波動関数のトポロジーを調べ、その熱電変換性能の巨大化を試みている。今年度の研究実績は主に次の3点である。(1) ナノスケールの磁気構造の一つであるスカーミオンの磁気安定性を調べるため、「一般化されたブロッホの定理」をの計算プログラムを開発し、論文 T. B. Prayitno and F. Ishii, Implementation of Generalized Bloch Theorem Using Linear Combination of Pseudo-Atomic Orbitals, Journal of the Physical Society of Japan 87, 114709 (2018)として出版した。(2) ハーフホイスラー合金において、ゼーベック効果、異常ネルンスト効果のキャリア依存性について明らかにした。この成果を論文 S. Minami, F. Ishii, Y.P. Mizuta, and M. Saito, First-principles study on thermoelectric properties of half-Heusler compounds CoMSb(M=Sc, Ti, V, Cr, and Mn), Appl. Phys. Lett. 113, 032403 (2018)として出版した。(3) 周期系に電場印加の計算プログラムの開発をおこなった。これはブロッホ波動関数の幾何学的位相に関する有効ポテンシャルであり、発展させることで他のトポロジカル量に関する有効ポテンシャルの開発が可能となる。
|