研究領域 | 次世代物質探索のための離散幾何学 |
研究課題/領域番号 |
18H04483
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
増渕 雄一 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (40291281)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 高分子 / ダイナミクス / 粘弾性 / 分子間相関 / 粗視化モデル / からみあい |
研究実績の概要 |
本研究では,マクロな高分子のからみあい現象のミクロな本質を明らかにするため,階層的な分子モデルにおける分子間の動的相関の数理に着目している.高分子のからみあい現象を説明するための分子モデルとして広く用いられる管模型では,分子間の動的相関は無視されている.しかし,高分子の運動は実際には独立ではない.応募者のこれまでの研究の結果,分子間の動的相関は,単なる局所的な引力や斥力による分子運動のコヒーレンスではなく,分子間の幾何的な束縛によるものであることがわかっている.そこで本研究では,応募者独自のモデル群により分子間の動的相関における幾何的な束縛と排除体積相互作用の効果を区別して考えている.階層的な分子モデルとして用いているのは独自の多体スリップスプリングモデル(MCSS),および多体スリップリンクモデル(PCN)である.加えて,すでによく性質が知られ広く用いられる粗視化モデルであるビーズスプリングモデルとを用いている. 本年度はバネ-ビーズモデル,MCSSモデル,PCNモデル,管モデルの現象論的な関係づけを確定し,ポリスチレンとの関係も明らかにした.具体的には,まずモデル間の現象論的な関係を平衡状態で特定し,系に導入しているからみあいの強さと弾性率の関係を明らかにした.また,分子間の動的相関において,排除体積相互作用とからみあい効果を分離した.さらに高速せん断変形や大変形一軸伸長のもとであっても,平衡状態で得られる関係が保たれることを示した.また星型やH型の分岐高分子についても同じ関係が成立することを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に示した事柄は,概ね本年度の計画として当初立案されたものに沿っている.このため順調に進展しているものと評価している. 想定よりも進展している内容もある.これは分岐高分子に関してKG,MCSS, PCNの3つのモデルの関係が特定できたことである.結果的には直鎖高分子の相互変換関係をそのまま用いればよいことを確認しただけであるが,相互変換が分子の形状に依存しないことは自明ではない. 一方,計画より遅れている事柄がある.まず実材料との比較についてはポリスチレンしか終わっておらず,ポリイソプレンについては作業中である.また高速流動場における検討について,一軸伸長変形のための装置系は立ち上げられたが,実験データの取得が遅れており,またシミュレーションプログラムの改修も終わっていないために,未達である. 上記を総合的に勘案して「おおむね順調に進展している」との評価とした.
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今後の研究の推進方策 |
今後も計画通りに進めていく.まず未達であるポリイソプレンにおける整合性を確認する.また一軸伸長流動場における分子運動も観察する.これらの現象論的な検討と並行して,最終目的である高分子からみあいの数理的な本質に迫るための取り組みを行う.具体的には.パーシステントホモロジーやネットワーク特製量をシミュレーション上で得る,それらの量と,これまでの解析で得られている,からみあいが分子運動に及ぼす束縛の強さや動的相関の強さとの関係を,数理的に解析する.それらの試行から,高分子のからみあい現象のミクロな記述を考察していく.
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