研究領域 | 次世代物質探索のための離散幾何学 |
研究課題/領域番号 |
18H04489
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
安本 真士 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 特任准教授 (70770543)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 離散微分幾何 / 曲面論 / 極小曲面 / 平均曲率一定曲面 / 空間グラフ |
研究実績の概要 |
今年度に得られた主な成果は以下の通りである. 1. 3次元ユークリッド空間内の離散化された離散曲面,3次元ミンコフスキー空間内の離散化された曲面の曲率理論を,研究協力者Wai Yeung Lam氏と共同で発見した頂点法方向の概念を用いて再整備しなおした.これは,頂点法方向の概念が,我々の意味での次数3の空間グラフの曲率理論を含む,より広いクラスに展開する際に極めて有用であることを示唆している. 2. 離散化された曲面の構造解析の手法開発の一環として,現れる特異点の構造解析を行った.次数3の空間グラフの極大曲面の場合については,以前に得られていたので,このアイデアをより一般の離散化された曲面に対しても適用し,開発した理論をより深化させた. 3. 海外研究協力者のChristian Mueller氏によって示された,3次元ユークリッド空間内の離散平均曲率一定曲面のガウス写像の振る舞いと,従来のラックス対によって記述される離散平均曲率一定曲面のガウス写像の振る舞いとの比較を行い,離散調和写像の解析的特徴付けについての共同研究を開始した. これらの研究実績に加えて,関連研究者を招いて研究集会を数回に亘って開催し,離散曲面の微分幾何的研究および関連諸分野の研究者の方々と情報交換および研究打ち合わせを行った.また,研究代表者によって得られた成果とは独立して,各々の国内研究者協力者も本研究課題に関わる着実に成果を挙げている.これらの研究を有機的に結びつけることが今後の課題である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では,3次元ユークリッド空間内の次数3の空間グラフの離散曲面論のみに焦点を当てて研究を遂行する予定であったが,我々の提唱する理論の検証作業を行うためにはより多くの研究サンプルが必要となる.そのため,より一般の3次元空間内の離散化された曲面および次数3の空間グラフの離散曲面論にまで議論を拡張する必要性が生じた.一方,研究協力者Wai Yeung Lam氏と共同で発見した頂点法方向の概念は,今のところより広いクラスの離散化された曲面の曲率理論を展開するために有用であることが明らかとなってきている.さらに,動的ネットワークの数理構造の研究と曲面の特異点・離散曲面・変分問題の数学研究の協働について議論を開始することが出来た.これは当初の計画にはない望外の収穫であり,実験と数学の協働・共創を加速させることに繋がる期待される.一方で,次数3の空間グラフの離散平均曲率一定曲面に対するラックス対については議論を開始しているものの,まだ満足のいく結果が得られてはいない.以上より,着手が遅れているプロジェクトがあるものの,研究課題により厚みが増しより充実したことから,研究はおおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
前年度の研究の進捗状況を鑑みて,今後は,現在着手が遅れている次数3の空間グラフの離散極小曲面,離散平均曲率一定曲面の研究に取り組む.離散極小曲面に作用するダルブー変換とその可積分性,離散平均曲率一定曲面のガウス写像の解析的特徴付けについては既に前年度に研究打ち合わせを開始しているので,これを基に,まずは以下の問題に取り組む. 1. 次数3の空間グラフの離散極小曲面に対するダルブー変換を施し,新たな離散極小曲面を構成法について考察する.なめらかな場合,新たな極小曲面のダルブー変換を施して得られる曲面は,対応する正則関数のデータに関する微分方程式で明示的に与えられることが知られている.この事実を参照し,新たな次数3の空間グラフの極小曲面を構成する手法を確立する. 2. 次数3の空間グラフの離散平均曲率一定曲面のガウス写像の振る舞いについて考察する.前年度の研究打ち合わせによって,離散平均曲率一定曲面のガウス写像の解析的特徴付けについては既に議論を開始しているので,今年度はこの結果を次数3の空間グラフの場合にも適用できるように理論を整備する. 3. 前年度に引き続き,次数3の空間グラフの離散平均曲率一定曲面に対するラックス対についての研究に取り組む.また,研究代表者等によって得られている,行列分解を応用した,離散平均曲率一定曲面の強力な構成法を次数3の空間グラフの場合にも導出し,新たな例の構成および曲面の構造解析についての研究を遂行する. これとは独立して,前年度からの継続課題として,実験によって観察されている磁気ビーズによる格子形成の問題を,サークルパッキングやサークルパターンを始めとする離散幾何の視点から数学的に定式化し,厳密な理論の展開を試みる.
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