昨年度、非弾性中性子散乱を用いて希土類ガーネットのフォノンと結晶場励起の測定を行った。この非磁性絶縁体は、磁場下で熱流が横伝導を示す。熱流はフォノンが担っていると考えられるが、フォノンは電荷もスピンも持たないため、その機構が興味深い。フォノンホール効果と呼ばれるこの現象の物理的機構を解明するために、磁場下におけるフォノンと結晶場の解析を進めた。磁場下においては、単位胞内に複数の希土類サイトが存在する。この事を念頭に置き、非弾性中性子散乱の実験データの解析を進めた。得られたデータには、音響フォノンの励起に加えて、約6 meV付近に大きな強度を持つ複数の結晶場励起と、低エネルギー領域に磁場と共にエネルギーが増加する強度の弱い結晶場励起が見られた。低エネルギーの結晶場励起(磁場が4Tのとき約2meV)は、フォノンホール効果に関連すると考えられる。Tbイオンは、酸素で構成される捻られた正四面体の中心に位置しており、磁場下においては、単位胞内に6つの異なるサイトが存在する。先行研究で与えられた結晶場パラメータを用いて、我々の実験配置に合わせて結晶場の計算を行い、低エネルギー領域の磁場依存する結晶場の波動関数を求めた。その結果、フォノンホール効果に寄与する共鳴散乱の素過程を決めることが出来た。その結晶場と格子歪みとの結合については、超音波吸収を用いた実験による評価も行われている。領域内で進んでいる統計的推定法を応用して、装置限界を乗り越えることを試みた。しかし、今回得られたデータから結晶場励起と音響フォノンとの結合に関する定量評価に関しては満足できる結果には至らなかった。
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