1細胞ラマン分光イメージングは、非破壊かつ非侵襲に、小分子からタンパク質の分子情報を網羅的に評価し、細胞場の環境変動を反映するビックデータを提供する。しかしながら、「膨大なスペクトルデータから、如何にして細胞場の環境の化学的多様性、変動度を定量できるか」は未開拓状態である。本研究課題では、1細胞ラマン分光イメージングに基づいて、膨大なスペクトルデータから背後の細胞場の化学多様性および環境変動を定量する分子データ解析技術を開発し、細胞場の物理化学的理解を目指し、細胞場の環境変動が細胞の状態や機能に及ぼす影響を体系的に明らかにすることを目的として研究を遂行した。
我々はC型、B型肝炎とともに三大肝疾患のひとつである非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の線維症を予測するラットモデルを対象に、ラマンスペクトル画像が張る高次元空間を次元削減することでデータ構造を可視化するアルゴリズムならびにアンサンブル機械学習のひとつであるランダムフォレストに基づく病理診断に重要なラマンシフト群の同定を行う方法論を各々開発し、まだ組織学的な病理が観察されていない初期段階でも組織状態を見分ける情報解析技術を考案した。この方法は、細胞や組織のミクロ場の差異をラマン分光イメージングで定量することで、まだ組織学的な変化がみられない初期段階においても、細胞診断が可能であることを示すものであり、今後、その動態の定量などを可能とする方法論の開拓が望まれる。
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