令和元年度も平成30年度に引き続き以下の項目について研究を進めたが、新学術領域研究「生命金属科学」の計画研究「生命金属動態を制御するシグナル伝達の分子機構」が採択されたため、年度途中で本研究課題は廃止となった。 ①細胞場における蛋白質構造の「構造揺らぎ」の部位特異的,定量的評価 平成30年度に引き続き、蛋白質表面にTrpを導入したミオグロビンとシトクロムcの作成を試みた。いずれも安定なTrp導入蛋白質を得るために、そのTrp導入部位について検討したが、実際の変異体を作成する以前に課題が廃止となった。 ②蛋白質立体構造形成反応 令和元年度はこれまでの研究で明らかになった脱水和に影響を及ぼすアミノ酸残基として、変性状態でヘムが配位するHis26に注目した。このHis26をヘムが配位しないGlnに置換した変異体を作成し、その立体構造過程における脱水和が細胞場環境においては野生型に比べどのように変化するのか追跡を試みたが、予備的な実験が終了する前に課題が廃止となった。 ③蛋白質間電子伝達複合体形成反応 令和元年度はNMRの緩和解析により、Cyt cにおける構造揺らぎの大きな部位を特定したところ、CcOとの相互作用部位とは離れたHis33に構造揺らぎを反映した化学交換が観測された。このHis33はAsn103と水素結合を形成していることから、HisをPheに置換することでこの水素結合切断したところ、化学交換が消失し、構造揺らぎが抑制されたことが示された。さらに、このような構造揺らぎの抑制はCcOへの電子伝達速度の低下をもたらし、相互作用部位から離れた部位での構造揺らぎがCyt cの電子伝達活性を制御していることが示された。このような構造揺らぎが細胞場類似環境でどのように変化するのか明らかにすることを試みたが、NMRの測定条件を検討するところで本課題が廃止となった。
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