研究領域 | 分子夾雑の生命化学 |
研究課題/領域番号 |
18H04533
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小井川 浩之 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (40536778)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 蛍光一分子分光 / タンパク質 / 混雑環境 / FRET |
研究実績の概要 |
一分子蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)測定により我々はライン共焦点光学系とマイクロ流路セルを組み合わせることで、100マイクロ秒程度の時間分解能で一分子の蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)効率の時系列を取得できる装置を開発してきた。しかし、現状の装置では分子夾雑環境下にある希薄な目的分子の検出には使うことができない。なぜなら、分子夾雑環境には蛍光を発する夾雑分子が多く含まれているため、目的分子からの微弱な蛍光は背景蛍光に埋もれてしまうからである。本研究ではマイクロ秒分解一分子FRET測定装置を再設計し、高背景光下においても一分子からの蛍光を検出し、細胞抽出液などの分子夾雑環境下でのタンパク質一分子の構造変化を高時間分解能で追跡することを目指している。 2018年度は、分子夾雑環境に対応するために装置の再設計を行った。これまでの装置からの大きな改良として、水浸対物レンズの導入とそのための光学系の最適化を行った。水浸対物レンズにより、レーザーの照射領域が狭くなるため、背景光が大幅に減少する。また、水浸対物レンズは開口数が大きいため、結果的に蛍光検出効率も改善する。水浸対物レンズを組み込んだ新装置で高時間分解能一分子FRET測定が可能であることも確認できた。 また、細胞抽出液中での測定も試みたが現状では背景光の影響が大きく、光学系のさらなる改良と試料に標識する蛍光色素の再検討が必要であることが分かった。 さらに、別の分子夾雑系として、タンパク質や核酸分子が高濃度で含まれる溶液が相分離してできる液滴にも注目した。液滴を形成するモデルタンパク質としてRNAヘリカーゼLAF1のRGGドメインの発現、精製、二重蛍光標識も行った。今後こちらの系での測定も行っていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度で行うことを予定していた高背景光下で使用可能な一分子蛍光測定装置の再設計についてはほぼ計画通りに進展した。細胞抽出液などの実際の分子夾雑系に適用するためには、まだ課題が残されているが、開発した装置が設計通りの時間分解能と感度を有していることは確認できた。 また、別の分子夾雑系として、液液相分離による液滴について検討した。液滴を形成するタンパク質としてLAF1のRGGドメインの発現精製と、蛍光標識を行うこともできた。 以上の理由から、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は細胞抽出液などの分子夾雑系では、想定以上に夾雑分子からの背景光が大きかった。そこで、背景光の影響が相対的に大きいライン共焦点光学系ではなく、測定条件検討のために通常の共焦点光学系を用いた一分子FRET測定や蛍光相関分光を行うことを予定している。また細胞抽出液に比べて背景光の影響が少ない夾雑系と考えられる相分離した液滴中での測定も検討している。
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