研究領域 | 分子夾雑の生命化学 |
研究課題/領域番号 |
18H04538
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小松 徹 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 特任助教 (40599172)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ケミカルバイオロジー / 創薬化学 |
研究実績の概要 |
本研究は,分子夾雑の概念の下,細胞内に存在するタンパク質の局在不均一性と機能に関する詳細な理解の実現を目指し,そのオルガネラ膜「局時」局在の制御と理解をおこなう新手法の開発とこれによる癌関連タンパク質の新たな側面からの機能解明を目指すものっである. これまでの研究により,研究計画書に記載したとおり,オルガネラ膜トラップ法を確立し,これを利用して,種々のがん関連タンパク質の細胞内局在の変化を詳細に調べることをおこなった.更に,これを利用して,細胞内のタンパク質の局在と代謝活性の変化の関係性を明らかにするため,有機小分子を用いて,細胞内の代謝反応が起こる「場」に摂動を与えることができる実験系として,(1) 特定の酵素,(2) 特定のオルガネラ,の細胞内の場所を変化させる摂動系の開発を達成した.これらの実験系は,細胞内の夾雑環境で展開される代謝反応の変化とがんの成り立ちの関係性を調べる有用な研究ツールとして利用されることが強く期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
タンパク質同士の相互作用を制御する有機小分子を用いて,一方のタンパク質を特定のオルガネラ膜上におき,細胞質に存在する他方のタンパク質を任意のタイミングで特定のオルガネラ膜上でトラップし,その平衡の偏りからオルガネラへの「局時」局在を明らかにするオルガネラ膜トラップ法を確立し,K-Rasタンパク質など,細胞膜と弱く相互作用するタンパク質群のオルガネラ局在の様子を調べる研究をおこなった.また,これと併せて,特に以下の2点について,新しい技術の開発をおこなった. (1)特定の代謝酵素の局在をオルガネラ膜上に偏らせ,その細胞内代謝への影響を精査する方法論を確立し,がんと代謝異常の新たな側面からの理解を目指す研究をおこなった. (2)オルガネラ膜トラップ法の開発の過程で,ミトコンドリアにおけるタンパク質の二量体化がヘテロ性をもって起こる現象を見出し,これが,特定のミトコンドリアが細胞膜のごく近傍に局在していることによることを明らかにした.そして,有機小分子を加えることで,膜近傍のミトコンドリアと細胞膜の相互作用が更に増強されることが確かめられた.本系は種々の代謝反応が起こるオルガネラ自体の細胞内局在に摂動を与える実験系として,細胞内のオルガネラの局在変化と代謝への影響を精査する研究に利用可能であることが期待される.
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今後の研究の推進方策 |
(1) 特定の代謝酵素の局在をオルガネラ膜上に偏らせ,その細胞内代謝への影響を精査する方法論について,種々のがん細胞において,解糖系に代表されるエネルギー産生に関わる代謝の異常が報告されているが,その初発となる解糖系の律速酵素であるhexokinaseの局在が,ミトコンドリア膜上に大きく偏ることが多くのがん細胞において報告されており,ミトコンドリアにおいて生成するATPを効率的に利用する仕組みとしてはたらいていると考えられている.これを有機小分子を用いて任意のタイミングで制御することで,解糖系の起こる場と,がんのエネルギー産生の関係性を明らかにする研究を進めていく. (2) オルガネラの細胞膜との相互作用に対する摂動系について,種々の代謝反応が起こるミトコンドリアなどのオルガネラの細胞内局在に摂動を与えることで,代謝活性への影響を明らかにする研究を進めていく.
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