研究領域 | 分子夾雑の生命化学 |
研究課題/領域番号 |
18H04540
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
上田 卓見 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 助教 (20451859)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | NMR / GPCR / 脂質二重膜 / ナノディスク / アデノシンA2A受容体 |
研究実績の概要 |
酵母に発現させたアデノシンA2A受容体 (A2AAR) を精製した上で、rHDLの脂質二重膜に再構成した。ゲルろ過クロマトグラフィーおよびSDS-PAGEによる解析の結果、rHDL1分子に1つのA2AARが再構成された単分散の分子が、90%以上の純度で得られたことが示された。 次に、重水素化とメチオニン残基選択標識を施してrHDLに再構成したA2AARのNMR解析を行い、内在性メチオニン残基およびGタンパク質結合部位付近に導入したメチオニン残基のNMRシグナルを帰属した。逆作動薬結合状態と完全作動薬結合状態では、これらのシグナルの化学シフトは顕著に異なっていた。化学シフトの観測値と、結晶構造に基づく環電流シフトの計算値の比較により、これらのシグナルが不活性型、活性型に対応することが示唆された。部分作動薬結合状態では、化学シフトが不活性型と活性型に対応するシグナルが両方観測され、その量比が温度依存的に変化した。したがって、A2AARが不活性型と活性型の平衡状態にあることが示された。さらに、活性型のシグナルの化学シフトが温度依存的に変化したことから、複数の活性型構造の交換状態にあることが示された。 脂質のアシル鎖にDHAおよびアラキドン酸が含まれるrHDLにA2AARを再構成して、GDP-GTP交換アッセイを行った結果、DHA鎖存在下において、A2AARのGタンパク質活性化能が向上することが示された。さらにDHAおよびアラキドン酸を含むrHDL中のA2AARのNMRスペクトルを取得した結果、部分作動薬結合状態における二つのシグナルの量比は変わらない一方、一部のメチオニン残基のシグナルの化学シフトがDHAにより変化した。以上の結果から、A2AARの各活性型構造の割合が脂質の影響を受けることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度の研究で、当初計画通り、rHDLの脂質二重膜に再構成したA2AARを調製してNMRシグナルを帰属すること、およびDHAを含むrHDL中のA2AARのシグナル伝達活性を解析した上でNMRシグナルを観測することを達成できた。さらに、脂質が部分作動薬結合状態において観測された不活性型と活性型の平衡には影響せず、複数の活性型の平衡の量比に影響することも明らかとなった。したがって、当初の計画以上に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
1. 常磁性緩和増大を利用した、DHA存在下と非存在下のA2AAR-rHDLの構造情報の取得 A2AARにおいてG蛋白質を活性化する部位(細胞内キャビティ領域)の溶媒露出度は、逆作動薬が結合した不活性型A2AARの結晶構造と、完全作動薬とG蛋白質模倣体が両方結合した活性型A2AARの結晶構造では顕著に異なる。A2AARの各残基の溶媒露出度は、溶媒への常磁性試薬の添加に伴うNMRシグナルの強度減少を観測する実験により調べることが可能である。そこで、DHAを含むA2AAR-rHDLと含まないA2AAR-rHDLそれぞれについて上記の実験を行うことで、細胞内キャビティの構造がDHAによりどのように変化するかを調べる。 2. DHAがA2AARの活性を変化させるメカニズムの調査 脂質が膜蛋白質の構造や活性を変化させるメカニズムとしては、脂質と膜蛋白質の相互作用と、ラテラルプレッシャー等の脂質二重膜の性質の変化が考えられる。前者の可能性を検証するために、DHA鎖の水素原子を飽和して、A2AARのメチオニン残基への飽和移動を調べる実験を行う。また、後者の可能性を検証するために、ラテラルプレッシャーを変化させることが知られているTFAの添加に伴い、A2AAR-rHDLのG蛋白質活性化能が変化するかどうかを調べる。
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