研究領域 | 分子夾雑の生命化学 |
研究課題/領域番号 |
18H04547
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
二木 史朗 京都大学, 化学研究所, 教授 (50199402)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 生体膜 / 曲率 / 脂質パッキング / ペプチド |
研究実績の概要 |
細胞膜は、種々の脂質、タンパク質、糖などが密集する究極の分子夾雑環境である。この分子夾雑環境の中で細胞膜と特異的に相互作用し、膜の形や脂質パッキング状態を制御できれば、細胞の運動、分化、分裂、融合などを制御する分子ツールが得られる。研究代表者は、膜への曲率(膜の湾曲状態、curvature)誘導が膜のパッキング状態や流動性の変化と密接な関わりを有することを細胞内輸送小胞形成に関わるタンパク質エプシンN末端18残基に対応するペプチド(EpN18)を用いてすでに示している。本研究では、細胞膜という分子夾雑環境で、膜曲率誘導・制御を通して膜の形状や流動性、さらには膜に担持されたタンパク質の機能を制御するペプチドを創出すると同時に、新しい細胞操作技術としての生命化学分野における展開を目指している。膜曲率誘導・制御を通して膜の形状や流動性、さらには膜に担持されたタンパク質の機能を制御するペプチドの創出を狙い、本年度は(I)膜構造・脂質パッキング状態の制御のための曲率誘導ペプチドの構造要件の解析を行うとともに、(II)細胞膜とペプチドとの相互作用増強による膜曲率増大・膜構造変換を行う新手法を開発した。さらに、(III)細胞運動・分化を制御するペプチドの創出を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(I)曲率誘導ペプチドEpN18の種々の類縁体の調製を通して、膜構造・脂質パッキング状態の制御におけるペプチドのヘリックス構造ならびに膜との疎水性相互作用の重要性に関する知見を得た。(II)細胞膜上のペプチド間相互作用を利用したEpN18の膜近傍への集積と膜との相互作用の増強を通して、膜曲率増大・膜構造変換を行う新手法を開発した(投稿準備中)。さらに、(III)膜の構造変形能を有するペプチドのスクリーニングにより、膜張力を低下させるペプチドを選出し、このペプチドが、細胞遊走の抑制作用を有することや、神経突起を増加させるなど興味ある活性を有することを見出した(投稿中)。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、(I) EpN18の両親媒性構造を強めるアミノ酸置換やアミノ酸組成の単純化による類縁体設計に関して更に検討を行い、曲率誘導・膜構造変換を亢進するヘリックス構造要因に関する知見を得る。(II) EpN18の直鎖連結体、バンドル体による膜との相互作用の強化を行い、膜アンカーユニットの付加による膜相互作用向上と膜構造変換活性増強の手法との融合を諮る。また、(III)膜の流動性やパッキング状態の調節を通した細胞膜上の蛋白質や受容体の会合や活性化制御効果に関しても検討する。得られた結果のフィードバックと再検討により、曲率誘導能・脂質パッキング調整能の向上とその誘導原理の理解を深め、膜の形状や流動性の制御とそれを利用する細胞機能調節系の構築規範を得る。
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