研究領域 | 分子夾雑の生命化学 |
研究課題/領域番号 |
18H04551
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
菅瀬 謙治 京都大学, 工学研究科, 准教授 (00300822)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 細胞内夾雑環境 / タンパク質 / 安定化/不安定化 / アミロイド線維化 / ATP / 細胞抽出液 / 剪断力 / Rheo-NMR |
研究実績の概要 |
細胞内は、多種多様なタンパク質が高濃度でひしめき合った夾雑環境であるが、そのような環境がタンパク質の安定性にどのように影響しているのかはほとんど理解されていない。私たちは、この問題に対して細胞内の物質的な環境と力学的な環境の2つの点からタンパク質の安定化/不安定化のメカニズムについて研究を行っている。前者の物質的な環境については、細胞内に多量に存在するATPによるタンパク質の安定化と細胞内夾雑物との非特異的相互作用によるタンパク質の不安定化に着目している。後者の力学的な環境については、細胞内の流動によって生じる剪断力による不安定化に着目している。 平成30年度は、まず、ユビキチンやαシヌクレインにATPを滴定していきNMRシグナルの化学シフト変化から相互作用する残基を特定した。興味深いことに、タンパク質に対して100当量以上のATPを滴定しないと相互作用が明確に観測できなかった。ユビキチンとαシヌクレインは細胞内に比較的多く存在するタンパク質で、その濃度は数十μMと見積もられている。一方、ATPの濃度は2-8 mMと言われており、ユビキチンまたはαシヌクレインの濃度との比をとると、今回の滴定実験の当量数と一致する。またATPがタンパク質の水和状態を変えていることも突き止めた。剪断力については、私たちはNMR管内に剪断力を発生させながら測定ができる高感度Rheo-NMRという装置を開発し、同装置を用いて様々なタンパク質を解析している。例えば、剪断力でアミロイド線維化することが分かっているαシヌクレインを対象として、二次元1H-15N相関スペクトルを連続的に測定した結果、経時変化と共に新しいシグナルが出現することを確認した。また、シグナル強度を時間に対してプロットした結果、実験開始直後に指数関数様にシグナル強度が減少した。現在、これらのデータの解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画調書に記載した平成30年度の計画の中で、細胞抽出液を添加した状態でのリアルタイムRheo-NMR測定が未実施である。一方、細胞抽出液を添加した状態でのタンパク質とリガンドの解離定数を決定したり、平成31年度に実施する予定であった動的構造解析を実施したりした。
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今後の研究の推進方策 |
概ね順調に進展しているため、平成30年度に未実施である細胞抽出液を添加した状態でのリアルタイムRheo-NMR測定に加えて、研究計画調書に記載した実験を行う。具体的には、タンパク質を安定化させるATPと不安定化させる細胞抽出液を添加した状態でNMRによる動的構造解析(R2 dispersionやCLEANEX-PMなど)を実施し、ATPと細胞抽出液がどのようにタンパク質の動的構造に影響を及ぼすのかを調べる。R2 dispersionを用いると構造変化の大きさと速度を部位特異的に定量化できる。加えて、1%程度しかないマイナー状態を検出することも可能である。CLEANEX-PMでは水とアミドプロトンの交換速度を定量化できる。同手法を用いるとタンパク質の水和状態に関する情報を得ることができる。
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