研究実績の概要 |
細胞環境を生体分子の反応場として理解するために、様々なクラウディング環境下でのタンパク質の反応・酵素活性を調べた。研究対象として光活性化型アデニル酸シクラーゼ(PAC)を取り上げた。PACは光依存的にATPからcAMPを合成する酵素である。cAMPは幅広い生物種が情報伝達物質として利用するため、PACはその細胞内濃度を光でコントロール可能な素子として応用面からも注目されている。クラウディング剤としてはFicoll 70, PEG 200, PEG 35000, Dextran, BSAを用いた。 まずPACの光反応を希薄バッファー中で調べたところ、発色団の反応が1 ns以内に完了した後、タンパク質全体の構造変化が57 msで起こることを明らかにした。これは光センサードメインと酵素ドメイン間の配向変化を捉えたものと解釈された。次にクラウディング環境下で同様の測定を行うと、構造変化を表す信号強度が減少する様子が観測された。これは反応速度や反応収率の低下に由来する。一般にクラウディング環境では排除体積効果により分子がコンパクトになり、タンパク質構造の安定化が起こる。これに伴い揺らぎが抑えられたことが反応性低下の要因と予想される。 続いて酵素活性をHPLCにより評価した。合成されるcAMP量を光照射前後で比較することで、酵素活性の上昇率が算出できる。希薄バッファー中に比べてクラウディング環境下では光依存的な活性の上昇率が低下することが明らかとなり、反応性の低下との相関が示された。その影響がクラウディング剤によって異なることも見出し、溶液の粘度や分子間相互作用など様々な因子が関わることが示された。
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