研究実績の概要 |
Wntは溶解度が低く組換体としての発現・精製が難しい蛋白質であり、これまで、構造的や物性な面からの研究はほとんど進んでいなかった。一方、申請者らは、Wntを発現・分泌する細胞培養細胞中に血清を添加した夾雑状態であればWntがnM程度の濃度であるものの安定性に溶解していることを見出している。そこで、本年度は当初の計画に従い、夾雑環境下の解析として下記を実施した。 1.Wnt-GFP 分泌細胞の培養液のFDS-AUCによる自己会合の化学量論決定・・・Wnt-GFP を分泌する細胞の培養液そのままを用いて、FDS-AUC 沈降速度法(FDS-SV-AUC)を行い、細胞培養液中での分子量分布を求め、Wnt-GFP は3量体が基本構造で3,6,9...のように多量体化することを解明した。 2.Wnt-GFP の自己会合の解離定数測定・・・1の実験から明らかとなったWnt の多量体形成について、Wnt-GFP 濃度を変化させた細胞培養液を用いて、FDS-SV-AUC により自己会合の解離定数がnMよりも強いことを明らかとした。 3.Wnt-GFPとパートナー蛋白質との相互作用解析・・・Wnt-GFP を発現・分泌する組換え細胞と他の蛋白質を発現・分泌する組換え細胞を共培養し、細胞の培養液そのままを用いて、FDS-AUC 沈降速度法(FDS-SV-AUC)による蛋白質間相互作用解析を行った。 その結果、細胞培養液中でWnt-GFP はFzd8-CRDと相互作用し、3量体に対して、1:1の複合体を形成することを明らかとした。以上は細胞培養液という夾雑環境中でのWntの相互作用解析を実現した世界で初めての成果で有り、論文として発表することが出来た。
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