本年度は、時計タンパク質群Kai、プロテアソーム、トリパノソーマGTP還元など複数の反応系について研究に取り組んだ。どの解析においても幅広いタンパク質濃度域を設定し、定量的な相互作用解析に取り組んだ。Kaiについては、ネイティブ質量分析によりKaiCの6量体にはATPが強い正の協同作用を持ちながら6分子結合することが分かったことから、リン酸化状態を模倣した変異体を作成し、振動にかかわる時計タンパク質KaiBや転写因子SasAとの相互作用をネイティブ質量分析により計測し、それぞれの反応の化学量論の決定を試みた。その結果、SasAは2量体が基本会合体であり、SasAの2量体はKaiBとは異なりKaiCの6量体に非協同的に相互作用し、6:2、6:4、さらに6:6複合体などが形成されることが判明した。 一方、バイオ医薬品である抗体医薬が濃厚状態で液液相分離するメカニズム解明を進めた。すでに利用されている医療用モノクローナル抗体について幅広く濃度および溶媒条件を検索したところ、溶媒条件の設定によっては液液相分離を起こすことを見出した。そこで、相分離が起きる溶媒条件で希薄相と濃厚相での分子間相互作用解析と構造解析を進めた。超遠心沈降速度法の解析の結果、希薄相を形成する濃度域でも会合体を形成するもの、3量体程度のサイズでとどまることが分かった。また、Fab断片を調製し、相互作用解析を行ったところ濃厚相を形成する濃度域であれば、安定的に2量体を形成することが分かった。そこで、濃厚相での相互作用に寄与する部位について、水素重水素交換質量分析による解析を行った。その結果、Fab領域のみならずFc領域の両方に相互作用部位が及んでいたことから、液液相分離にはIgG分子全体が必要である事が分かった。以上、本年度は生体環境を反映した幅広い濃度域での定量的相互作用に複数成功する成果を上げることができた。
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