研究領域 | 分子夾雑の生命化学 |
研究課題/領域番号 |
18H04558
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
松浦 和則 鳥取大学, 工学研究科, 教授 (60283389)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 人工ウイルスキャプシド / 自己集合挙動解析 / 分子夾雑系 / beta-annulusペプチド / 蛍光相関分光法 / DNA |
研究実績の概要 |
球状ウイルスは、自身のゲノム核酸を覆うようにタンパク質が自己集合してキャプシドと呼ばれる殻構造を形成する。質量分析や顕微鏡観察の進歩により、天然ウイルスキャプシドの自己集合過程における中間体の解析が行われているが、水溶液中や分子夾雑環境下でのキャプシド形成の定量的な解析は行われていない。当研究室ではトマトブッシースタントウイルス(TBSV)由来の24残基ペプチドが水中で自己集合し30-50nmの人工ウイルスキャプシドを形成することを報告してきた。本研究では、N末端側に蛍光性Rhoをラベル化したbeta-Annulusペプチドを用いて、水溶液中での自己集合挙動を蛍光相関分光(FCS)法によって解析した。Rho-beta-Annulusペプチドの濃度一定(5 uM)の下、未修飾beta-Annulusペプチド濃度を変化させてFCS測定を行ったところ、 25 uM以上において二成分モデルでフィッティングでき、未集合のRho-beta-Annulusペプチドの拡散時間と、集合体と考えられる大きな拡散時間が得られた。Stokes-Einsteinの式より、粒径はそれぞれ0.1nmと35nmであった。beta-Annulusの臨界会合濃度(CAC)は25 uMであることから、蛍光ラベル人工ウイルスキャプシドの形成をFCS測定できたと判断した。 また、人工ウイルスキャプシドへのFITCラベルデキストランの内包挙動をFCSで解析することにも成功し、デキストランの分子量依存的に内包が起こることを示すことができた。 さらに、ジスルフィド結合を介して短鎖DNAを内包した人工ウイルスキャプシドの構築にも成功し、還元環境下でのDNAの放出制御ができることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画どおり、ローダミンラベルbeta-Annulusペプチドを合成し、希薄水溶液中、ローダミンラベルbeta-Annulusペプチドと非ラベルbeta-Annulusペプチドの混合系での蛍光相関分光(FCS)測定により、人工ウイルスキャプシドの自己集合過程の解析にある程度成功した。しかし、ローダミンラベルしたことにより、ペプチドの自己集合過程に影響を及ぼしたため、人工ウイルスキャプシド形成過程を明確に解析するには至らなかった。当初の目的である分子夾雑環境下でのFCS解析もできていないため、研究がやや遅れていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、BODIPYなどのペプチド自己集合に影響が小さいと思われる蛍光色素でラベルしたbeta-Annulusペプチドを合成し、その希薄水溶液中 での自己集合過程をFCS測定を検討する。キャプ シド形成の見かけの会合定数K、協同性パラメータn、自由エネルギー変化ΔGなど求める解析 法を確立する。また、TBSVやヒトパピローマウイルス(HPV)のキャプシドタンパク質を蛍光ラベル化し、FCSによる自己集合挙動の解析法を確立 する。さらに、beta-Annulusペプチド/キャプシドタンパク質の自己集合のFCS解析を、高濃度のPEGなどの水溶性クラウディング剤 存在下で行 う。各クラウディング条件におけるKおよびΔGを求め、クラウディング環境によって自己集合挙動に及ぼす影響を議 論する。会合のΔGを水の 活量に対してプロットすることで、ウイルスキャプシド形成におけるペプチド/タンパク質への水分子 の結合・放出の効果が明らかになると思われる。
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