球状ウイルスは、ゲノム核酸をタンパク質のキャプシドが覆うことで構築されている。近年、自己集合性ナノカプセル材料として注目されている球状ウイルスキャプシドが形成する過程の物理化学的解析が質量分析や顕微鏡観察により進められている。しかし、これまでに希薄水溶液中や細胞環境を模した分子夾雑環境下での、ウイルスキャプシド形成の定量的な解析は行われていない。本研究では、これまで開発してきたトマトブッシースタントウイルス由来のbeta-Annulusペプチドからなる人工ウイルスキャプシドの自己集合挙動を、分子夾雑下でも選択的に定量評価可能な蛍光相関分光(FCS)法を用いて解析した。 BODIPY-beta-Annulusペプチドの濃度一定(0.1uM)の下、beta-Annulusペプチド濃度を変化させてFCS測定を行い、自己相関関数の二成分カーブフィッティングから拡散時間を求め、Stokes-Einsteinの式から見かけの粒径を算出した。その結果、25uM以上において人工ウイルスキャプシドと思われる粒径に相当する遅い成分が観測された。また、人工ウイルスキャプシドの存在割合のペプチド濃度依存性から、キャプシド形成は協同的に起こっていることが示唆された。5wt% PEG存在下における遅い成分の存在割合は、希薄水溶液より約30%増加した。Hillの式により解離定数を算出すると、希薄水溶液では42 uMであるのに対し、5wt% PEG存在下では17 uMであった。これらの結果は、PEGによる排除体積効果によりキャプシド形成が促進されたことを示唆している。 また、ヒト血清アルブミンやGFPで被覆した人工ウイルスキャプシドや、ジスルフィド結合を介して短鎖核酸を内包した人工ウイルスキャプシドの創製にも成功した。さらに、京都大学の二木教授と細胞膜透過性人工ウイルスキャプシドの創製にも成功した。
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