本研究では、トップダウンプロテオミクスおよびネイティブ質量分析によるタンパク質複合体解析のための試料前処理技術を開発し、分子夾雑環境におけるタンパク質構造情報の新規解析手法を確立した。
トップダウンプロテオミクスに関する成果:海外研究協力者である米国国立高磁場研究所のLissa C Anderson博士のグループとの共同研究により、(1)夾雑な生体サンプルからトップダウンプロテオミクスを行うための前処理技術(PEPPI-MS)の開発、(2)定量プロテオフォーム解析のための内部標準の無細胞合成基盤の構築に成功した。確立した技術の性能評価を行うために、PEPPI-MSを用いて大腸菌プロテオーム成分の大規模トップダウン解析を実施した。タンパク質試料は、PEPPI-MSと逆相HPLCによる2次元分画で処理した後、超高分解能フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析装置を用いてトップダウン質量分析に供した。オフライン分画により質量分析装置に導入される試料の複雑さが軽減され、シグナルノイズ比、分解能、前駆体の分離が改善された結果、微量試料から323プロテオフォームの計測に成功した。
ネイティブ質量分析に関する成果:昨年度までに開発した、非変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動(ネイティブPAGE)とネイティブ質量分析を組み合わせたタンパク質複合体の新規構造解析法を活用して、赤血球抽出成分に含まれるヘモグロビン複合体のネイティブ質量分析に挑戦した。ヘモグロビンを高感度に検出するため、複雑な抽出成分を二次元ネイティブ電気泳動(1次元目:ネイティブ等電点電気泳動、2次元目:ネイティブPAGE)により分離した後、オクチルグルコシドを用いたPEPPI-MSによりヘモグロビンをゲルから回収し、ネイティブ質量分析で測定することによりヘモグロビン四量体の高分解能解析に成功した。
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