研究領域 | 分子夾雑の生命化学 |
研究課題/領域番号 |
18H04568
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
喜井 勲 国立研究開発法人理化学研究所, 科技ハブ産連本部, ユニットリーダー (80401561)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | リン酸化酵素 / DYRK1A / フォールディング / 遷移状態 / FINDY / 活性ドメイン / 熱力学安定性 |
研究実績の概要 |
研究の結果、培養細胞内にてリン酸化酵素DYRK1Aと相互作用するタンパク質群は、阻害剤作用の有無に関わらず、大きく変動しないことがわかった。一方、リン酸化酵素DYRK1Aの活性欠損変異体(自己リン酸化不全変異体)では、野生型DYRK1Aと比較して相互作用するタンパク質群が分子シャペロンなどの品質管理機構に関わるものを中心に大きく変動した。これらの結果から、一旦完成型となったDYRK1Aに関しては、阻害剤の結合によって相互作用するタンパク質群が変動しない。しかし、フォールディング途中での活性阻害は、その相互作用タンパク質群に大きな変動をもたらすことが明らかとなった。 上記内容に加え、活性欠失変異体で変動するタンパク質群を対象としたインフォマティックス解析を進めた。本解析については、本年度も継続して行い、DYRK1Aのフォールディングによる酵素活性獲得に失敗した場合の品質管理機構の全貌を解明する。 さらに、thermal shift assayを用いたin vitro再構成系の構築を進めた。その結果、まずDYRK1Aの活性ドメインだけを用いたin vitro評価系とその系での阻害剤FINDYの作用の検出に成功した。この系では、試験管内にDYRK1A活性ドメインとFINDYのみが入った状態であり、そのような単純化された系での化合物の作用の検出系の構築に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Thermal shift assayを用いることで、DYRK1A活性ドメインとFINDYの相互作用を直接的かつ定量的に評価できるようになったことは非常に大きい成果であると考えている。このin vitro再構成系に対して、分子クラウディング剤や分子シャペロンなどを添加することで、細胞内分子夾雑環境を再現できる可能性があると期待される。これまでフォールディング途中の遷移状態を再構成系にて再現することは非常に難しいとされてきたが、今回のthermal shift assayを応用した再構成系は、これまで研究が難しいとされてきたフォールディング途中の遷移状態とそれを標的とした化合物の作用機序をシンプルに扱う上で有用な実験系となり得ることを示していると考えている。研究計画に記載した実験について進めた上で、このin vitro再構成系の構築成功は計画にない成果であるため、当初の計画以上に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、この単純化されたin vitro再構成系を分子夾雑状態とするため、クラウディング剤の添加や、上記にて同定した相互作用分子としての分子シャペロンなどの添加によって、阻害剤の作用がどのように変化するかを解析する。さらに現状では検出系は一つであるため、これを他の側面からも計測する必要があると考えている。そのため、領域内共同研究により、特にタンパク質の変性プロセスの研究者と連携し、多角的な解析を実施する。すでに構築した高感度蛍光イメージング技術(タンデムHaloTag)については、実施例を積み上げ、論文投稿へと進める。この高感度蛍光イメージング技術による DYRK1Aの単分子解析はすでに実施したが、しかし、この技術で開発したタンデムHaloTagは、核内への移行に問題があることが判明した。DYRK1Aが核内分子であるため、内在性DYRK1Aの局在を反映しない結果となってしまったが、細胞質での合成直後の挙動解析には活用できるため、使い方を熟考し、細胞内タンパク質の分子夾雑状態での挙動解析に活用する。
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