2019年度は、分子夾雑環境におけるリン酸化酵素DYRK1Aフォールディング中間体の活性調節機構について以下の研究成果を得た。(1)細胞内の分子夾雑環境下における分子内自己リン酸化依存的なフォールディング品質管理機構の網羅的同定を目的として、分子内自己リン酸化の前後でDYRK1Aに対して結合の変化するタンパク質群を網羅的かつ定量的に同定した。これらに対してバイオインフォマティックスによる解析を実施し、その品質管理機構の中心的な役割を担う分子群の同定に成功した。具体的には、リン酸化依存的ペプチドに結合する14-3-3群、また分子シャペロンタンパク質群である。加えて、ユビキチン化酵素の結合変化は想定していたものの、興味深いことに脱ユビキチン酵素群も変化する群として検出された。品質管理として、ユビキチン化のみならず、脱ユビキチン化による調整を受けていることが判明し、その複雑性が明らかとなった。これらの実験結果については、定量的解析及び大規模インタラクトーム解析を実施しており、取りまとめ論文として発表する。(2)リン酸化酵素DYRK1Aの熱変性過程に出現する構造に、フォールディング中間体特異的阻害剤FINDYが結合することを見出した。さらに、この結合はその後の冷却により安定に単離することができることを発見した。この発見は、フォールディング中間体の構造解析を可能とすると期待される。そのため、今後はこの技術を応用し、フォールディング中間体を試験管内で擬似的に作り出し、それへの阻害剤の作用を評価する技術の確立を目指す。本技術については特許出願予定である。(3)上述の技術に対して、分子夾雑環境が与える影響を解析した。まずフォールディングに対しては、PEGなどのポリマーや細胞内タンパク質の添加は、折りたたみを安定化する働きがあることが判明し、阻害剤の作用に対して環境依存性があることがわかった。
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