本年度は連星ブラックホール合体重力波の赤方偏移分布への重力レンズ効果の影響について詳しく調査した。連星ブラックホール合体は電磁波放射を伴わないないし非常に弱いことが期待されており、また重力波観測の角度分解能もそれほどよくはないため母銀河の同定は困難であり、従って赤方偏移は直接観測できず光度距離の観測から赤方偏移を間接的に推定することとなるがその光度距離の見積もりに際して重力レンズ増光の影響を直接的に受ける。重力レンズ効果が強い場合、重力波の複数像が観測されるが上記の理由によりその複数像を同定することも難しく、従ってこれらの複数像は別個のイベントとして観測されるだろう。この状況のもとに重力レンズ効果を取り入れた赤方偏移分布の計算を行った結果、高赤方偏移での分布で重力レンズの効果が極めて著しいことがわかった。具体的には、重力レンズで減光された低赤方偏移の複数像の一つが重力レンズ効果で見かけ上高赤方偏移のイベントとして観測されるがこのようなケースが卓越することが判明した。高赤方偏移での重力波分布は連星ブラックホールの起源を探る上で鍵となると考えられていたが、今回の研究により重力レンズ効果を正しく取り入れることが観測される分布を解釈する上で極めて重要なことがわかった。またこの他の研究として、上記の計算で必要となる重力レンズ増光率確率分布についての基礎的な研究を行い、いくつかの新しい知見を得た。
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