研究領域 | 重力波物理学・天文学:創世記 |
研究課題/領域番号 |
18H04582
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
阿部 文雄 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 准教授 (80184224)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 重力波 / 相対論 / 光学赤外線天文学 / 中性子星 / 元素合成 / ブラックホール |
研究実績の概要 |
本研究は、アメリカのLIGO、ヨーロッパのVirgo、日本のKAGRAなどの重力波検出器で検出された空力はのアラートに基づき対応天体の可視光による探索および追観測を実施することを目的としている。観測は、ニュージーランド・マウントジョン天文台のMOA II 1.8m望遠鏡およびB&C 61cm望遠鏡を使用する。MOA II 1.8m望遠鏡は、広視野を利用して出して重力波天体の探索に使用する。B&C望遠鏡は、3色(i, r, g)同時に観測可能であることを利用して、色の変化などを捉える。 光を発すると考えられる中性子星連星や中性子星・ブラックホール連星の合体は、宇宙の重元素合成を理解するうえでカギとなり、観測によりその物理プロセスを明らかにすることを目指す。 本年度は、2019年初めに予定されていたLIGO/Virgoによる観測(O3)に備え、観測・解析体制の構築を行った。2017年の観測(O2)の際の観測・解析システムを構築した学生が死亡したことと、日本の追観測グループ(J-GEM)で統一したシステム(Planner/Image Server)を構築することになったので、それに対応した観測体制を構築した。 アラートを受け取ると、観測者および関係者にメールで通知され、観測のコマンドが自動生成される。これを観測者が実行することにより、観測が実施される。得られたデータは、Image Serverにアップロードされ、過去に取得されたPanStarrsまたはDSSのイメージと比較することにより、新天体を発見する。 このシステムは、12月にはほぼ出来上がり、テストアラートによって実際に観測を行っている。テストでは、いくつか問題が見つかり、それを修正しながら、O3に備えた。実際には、O3開始は、4月初めに延期された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LIGO/VirgoのO3開始がやや遅れたが、追観測およびデータ解析の準備は、ほぼ予定通り進んだ。J-GEMの参加機関との共同研究により、24時間イベントを監視し、観測・データ解析に備える体制も出来上がって来た。望遠鏡も順調に稼働し、観測員の確保もできている。これまでのところ、計画の実施に大きな困難は想定できない。 O3は、2019年4月2日に開始され、最初のイベント等の観測も既に実施している。これまでのところ、光学的対応天体が期待される近距離での連星中性子星や中性子星・ブラックホール連星の合体はまだ起きていないが、こうしたイベントが起きれば、ただちに対応できる体制はほぼ整った。今後起きるイベントを利用して、観測・解析システムの改良を行いながら、近距離での重要なイベントが起きるのを待つ状況となってきた。。O3の期間(約1年)にこうしたイベントが数回起きることが期待される。これまでに光学的対応天体が観測されたのは1例だけで、今期の観測には大きな成果が期待されている。 こうした状況から、計画はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
上記の様に、観測計画はほぼ順調に進んでおり、計画通り追観測を実施し、光学的対応天体を特定することを目指す。科学的には、中性子星連星合体直後の状態を観測して、モデルと比較することが重要とされている。これは、合体1-2時間後の放射に関しては、モデル間のずれが大きいためであり、実際に起きている物理過程の理解に大きく貢献できることが期待される。また、中性子星・ブラックホール連載の合体が観測されれば、中性子星の状態方程式の理解に重要な情報を与えることが期待される。これは、中性子星がそのままブラックホールに吸い込まれるか、潮汐破壊されてばらばらに吸い込まれるか、両極端のモデルがあり、光学的対応天体の観測が重要な情報を与えることが期待されるからである。 こうした事象が、実際に光学的に観測されるためには、イベントが近距離で起きるなど、偶発的な要因も影響する。しかし、実際に起きた際には逃さず観測し素早く信頼性の高い解析を実施するには、事前の準備が重要となる。観測・解析手法に磨きをかけ、決定的なイベントが起きるのを待つ。 観測・解析に成功すれば多くの成果が期待されるが、得られたデータの理論的な解釈も非常に重要である。観測・解析においては、J-GEMの参加機関と協力し、観測・データ解析体制を改良する。また一方では理論家と協力することにより、より多くの成果を目指す。
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