研究領域 | 重力波物理学・天文学:創世記 |
研究課題/領域番号 |
18H04583
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤田 龍一 京都大学, 基礎物理学研究所, 研究員 (50816626)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ブラックホール摂動法 / ポストニュートン近似 / 重力波物理学 / 一般相対性理論 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、巨大ブラックホールを周回するコンパクト天体から放出される重力波に対し、データ解析に適用可能な重力波理論波形の構築を行うことである。理論波形の構築は、ブラックホール摂動法を用いた高速高精度の重力波数値計算手法とポストニュートン近似による重力波放出に対する高次補正の解析計算とを駆使して行う。このような質量比の小さな連星系からの重力波は、2034年頃に打ち上げられる予定の宇宙重力波望遠鏡LISAの主要な重力波源のひとつであり、LISAのデータ解析に適用可能な重力波理論波形の構築を目指す。
ブラックホール摂動法では、巨大ブラックホールを背景時空とし、周回天体が誘起する摂動場を連星系の質量比で展開し摂動場の方程式を解く。質量比の補正がない場合、周回天体は背景時空の測地線を運動するが、質量比の補正を取り入れると周回天体の軌道は測地線からずれてくる。まず本研究では、質量比最低次の軌道の補正を考慮した重力波放出の計算に取り組んだ。測地線を特徴づける連星系の4つのパラメータに対して、約10万のパラメータ組に対する重力波放出の数値計算を実行し、その結果についての学会発表を1件行った。ポストニュートン近似の下で軌道離心率展開した重力波理論波形の構築についての学会発表を1件行った。軌道離心率で展開した場合、展開することにより得た重力波エネルギーフラックスなどの物理量の収束性が悪くなる。そこで、軌道離心率で展開せずエネルギーフラックスを得る手法についての議論を行い、学会発表を2件行った。質量比の最低次での重力波放出の計算は断熱近似を行うことで得られるが、共鳴軌道への適用には困難がある。Hamilton形 式を用いた再定式化を行い、共鳴軌道へも比較的簡単に適用できる方法を学術雑誌へ発表し、質量比の次の効果を考慮する準備とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で扱う重力波波源のパラメータは、中心ブラックホールの自転角運動量、周回天体の軌道半径、軌道離心率、軌道傾斜角の4つである。現在までに、これら4つのパラメータを1組とする約30万のパラメータ組について重力波の数値計算を行った。さらに、赤道面軌道に対しても約20万のパラメータ組について数値計算を行った。赤道面軌道の場合について数値計算結果を内挿すると、LISAデータ解析で重力波を検出できる程度の精度を達成できた。しかし、軌道傾斜角が一般の場合には数値計算のデータが足りないためか、重力波を検出できるような精度を持つ内挿モデルの構築には至っていない。そこで、引き続き数値計算データの蓄積を行う一方、赤道面楕円軌道の場合について、内挿モデルを元に重力波放出による軌道進化を考慮した重力波振幅の計算などを行い、実際のLISAデータ解析においてどのような連星系のパラメータならば重力波検出されやすいのか検討しており、学術雑誌に投稿するため結果をまとめているところである。
ポストニュートン近似による重力波放出の解析式の導出にも取り組んでいる。現在までに、重力波散逸項のポストニュートン(PN)項を5PNかつ軌道離心率の10乗の精度で導出している(Rを軌道半径とすると、nPNとは1/Rのn乗の補正をあらわす。)。重力波放出による軌道進化も考慮した重力波波形の導出も行っており、学術誌に投稿するためまとめているところである。これに加え、軌道離心率で展開しないポストニュートンの解析式の導出にも取り組んでいる。周回天体の軌道は5PNまで導出しており、重力波放出の解析式を導出するためには重力波の漸近振幅を周回天体の軌道周期で積分する必要がある。現在までに、被積分関数を5PNまで導出しており、積分を解析的に実行するために必要な定式化は2PNまで導出済である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は以下の3点を軸に研究を進める。 (1) LISA観測で想定される波源の広いパラメータ範囲に対する重力波の数値計算 (2) ポストニュートン近似を用いた重力波補正項の解析計算 (3) 重力波の数値結果とポストニュートン近似の補正式を組み合わせ、LISAデータ解析で重力波を検出できるようなモデルの構築、である。
「現在までの進捗状況」でも述べたように、約1年かけて約30万のパラメータ組について重力波の数値計算を行ったが、赤道面軌道の場合と違いLISAデータ解析へ適用可能な精度をもつ内挿モデルの構築はできていない。内挿に使うパラメータ組の数を数倍変えても内挿結果の精度に変化は見られないため、数年間数値計算を継続し数値データの量を増やしたとしても内挿精度は劇的に向上しない可能性がある。そこで、引き続き数値計算データの生成を行うとともに、どの波源パラメータの数値データが不足しているかを特定するため、赤道面軌道の結果に加え、ブラックホールの自転がない場合や軌道離心率がゼロの場合について数値計算を行い、どの程度のパラメータ数ならばLISAデータ解析へ適用可能な精度を達成できるかの見積りを行う[計画(1)]。さらに、ポストニュートン近似による解析式を補助的に用いる。赤道面円軌道の場合では、7PNまで計算すると数値計算との一致具合は5PNの場合に比べて向上することが知られており、本年度は非赤道面楕円軌道の場合に重力波散逸項を7PN まで計算することを目標とする[計画(2)]。以上を元に、重力波散逸項の数値計算結果と7PN解析式とを組み合わせ、LISA データ解析に最適な重力波波形のフィット式 の構築を試みる[計画(3)]。
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