研究領域 | 重力波物理学・天文学:創世記 |
研究課題/領域番号 |
18H04587
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
兼村 晋哉 大阪大学, 理学研究科, 教授 (10362609)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 拡張ヒッグス模型 / 重力波実験 / 電弱相転移 |
研究実績の概要 |
本研究では、将来の重力波観測がヒッグスセクターの構造とその背後の物理を解明する為の手段となる全く新しい可能性を追究する。宇宙バリオン数生成問題を説明する有力シナリオである電弱バリオン数生成は、強い一次的電弱相転移を伴う標準理論から拡張されたヒッグスモデルを必要とする。初期宇宙に生じた強い一次的電弱相転移の「こだま」としての重力波を検出することで、電弱バリオン数生成を立証できるだけでなく、重力波スペクトルの詳細からヒッグスポテンシャルの構造を決定できる可能性がある。平成30年度の研究実績としては、 (1)様々な将来実験を用いてヒッグスセクターを決定する方法を研究した。拡張ヒッグス模型において、電弱相転移が一次的相転移である場合に発生する重力波のスペクトルを計算した。特に将来の重力波実験 LISA, DECIGO の感度曲線を用いて、重力波スペクトルからヒッグスセクターがどの程度決まるかをフィッシャー行列解析により研究した。 (2)標準理論に追加したU(1)Xゲージ相互作用が、ダークヒッグス機構により自発的に破れるモデルを検討した。特に、電弱相転移とダーク相転移のパターンを調べ、マルチステップで1次相転移が生じる状況のもとで発生する重力波を調べた。ダーク光子の質量が25GeVより大きい場合には、2段階の相転移によって発生する重力波の特徴的なスペクトルが将来の宇宙における重力波干渉計(LISA, LIGO)で検出できることを示した。 (3)荷電スカラー粒子が追加された理論で、その粒子が電弱相転移現象に与える影響を計算し、強い一次的電弱相転移が生じる条件を調べ、また重力波スペクトルを求めた。全ての理論的制限と実験からの制限を考慮に入れて相転移が一次的相転移となるパラメータを調べ、宇宙重力波実験における検証可能性と、他の様々な拡張モデルとの区別、加速器実験との相補性を議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度の実施計画の前半部、すなわち様々な拡張ヒッグス模型に基づいて、強い1次的電弱相転移の条件を検討し、系統的に分類する点に関しては、電弱バリオン数生成に加えて暗黒物質を説明する模型やBーLゲージ対称性が自発的に破れる等を含め多くの模型を研究し、その性質と重力波スペクトルを解析するなど、多くの成果をあげることができた。計画の後半部についても、いくつかの拡張模型について、重力波スペクトル測定の不定性を考慮した場合にヒッグスセクターのパラメータをどの精度で決定できるかについて、フィッシャー行列解析により明らかにできた。これらの研究成果は複数の論文として出版することができた。また、成果は国際会議で発表した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度は、様々な電弱バリオン数生成のモデルを精査し各モデルでのヒッグス3点結合のずれ、発生する重力波の強度やピーク振動数を系統的に計算し、フィッシャー解析を用いて重力波のスペクトルのピーク振幅、ピーク振動数の測定から素粒子モデルのパラメータがどの程度の不定性で決定できるかを評価した。 昨年度に引き続いて、本年度は以下の研究を進める。電弱相転移の真空泡の物理と重力波発生機構の詳細を研究する。泡の衝突や泡内部プラズマ乱流からの重力波スペクトルに関し信頼性のある計算を実施する。最近新たな発生源として指摘された泡衝突時の音波からの重力波を精度良く見積もる為のシミュレーションも行う。白色矮星の連星等の天体現象からの前景重力波や他の初期宇宙起源の背景重力波を調べる。また、前景重力波の存在を考慮に入れてフィッシャー解析を行いパラメータの決定精度を評価する。素粒子モデルの検証と仕分けという目的の為に必要な将来重力波干渉計の性能を評価する。得られた成果は論文としてまとめ出版し、また国際会議などで研究発表を行う。
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