研究領域 | 重力波物理学・天文学:創世記 |
研究課題/領域番号 |
18H04592
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
大須賀 健 筑波大学, 計算科学研究センター, 教授 (90386508)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ブラックホール / 降着円盤 / ホイルリットルトン降着 / 数値シミュレーション |
研究実績の概要 |
連星ブラックホールの合体、もしくは三体相互作用などによって生まれると予想される孤立ブラックホールへのガス降着率および輻射特性を解明し、観測による検出へとつなげることが本研究の目的である。そのためには(1)ブラックホール近傍の降着円盤とアウトフロー、およびそこで生じる輻射を解明し(2)アウトフローや輻射の効果を加味した現実的なホイル=リットルトン降着を解き明かす必要がある。 計画(1)に関しては、降着円盤のシミュレーションにおいて実績のあるCANS+にモーメント法に基づく輻射場計算スキームを実装した。ひとつの応用例として活動銀河中心核の降着円盤のシミュレーションに成功した。また、より精緻に輻射場およびガスダイナミクスを調べるため、ボツルツマン法に基づく一般相対論的輻射磁気流体計算コードの開発も進めている。最終のテスト計算を終了し、実際の降着円盤の計算が進行しつつある。また、輻射スペクトルの情報を得るためにはポストプロセスで輻射スペクトル計算を行う必要があるが、このためのモンテカルロ法に基づく一般相対論的輻射輸送計算コードの開発に成功した。計画(2)に関しては、大規模な流体シミュレーションを実施することを前提に、まずは流体素片の軌道をラグランジュ的に解く計算コードを開発した。過去の類似の研究結果を再現することに成功し、より現実的な状況を解くためのコードに発展させるため、ダストの効果を組み込む作業を進めている。 以上のように、ブラックホール近傍を扱う計画(1)においてもホイル=リットルトン半径領域を扱う計画(2)についても、コードの開発を進めつつ、順調に結果が得られつつある状況である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の重要なポイントは、ブラックホール近傍の構造ととホイル=リットルトン半径領域のダイナミクスを、自己矛盾なく解明することである。そのためには、ブラックホール近傍をターゲットとしたシミュレーションを実施し、降着円盤とそこから生じる輻射、アウトフローを精緻に解く必要がある。そして、その効果を加味したホイル=リットルトン領域半径のシミュレーションを実施することも必要である。本計画の遂行にはこれら二つのシミュレーションが必要であるが、どちらにおいてもコードの開発が順調に進んでいると言える。 ブラックホール近傍のシミュレーションに関しては、非相対論的な輻射磁気流体コードと一般相対論的な輻射磁気流体計算コードを必要に応じて使い分けるが、どちらも順調に開発が進み、降着円盤およびジェットのシミュレーションが進んでいる。ホイル=リットルトン半径領域への輻射の影響を調べるには、輻射スペクトルを知る必要があるが、そのための輻射輸送計算コードの開発も無事完了した。ホイル=リットルトン半径領域のシミュレーションには、大規模な3次元シミュレーションが必要となるので、その第一歩としてまずは流体素片をラグランジュ的に解くコードを開発している。こちらも順調にテスト計算が終了し、ダストの効果を加味する改良が進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、まずはじめにブラックホール周囲の降着円盤のシミュレーションを実施する。ホイル=リットルトン降着によって実現される質量降着率は大小様々であると予想される。そこで、質量降着率が極めて高い状況、および降着率が極めて低い状況においては一般相対論的輻射磁気流体計算コードで、質量降着が中程度の場合は非相対論な輻射磁気流体計算コードを用いてシミュレーションを実施する。これにより、様々な質量降着率において、円盤放射やアウトフローの強度および角度依存性を調べることができる。この計画と並行して、ホイル=リットルトン降着半径領域の計算を遂行する。流体素片をラグランジュ的に解く計算によって、大まかなガスの流れとガスの流れに与えるダストの影響を解き明かす。最終段階では、ブラックホール近傍からのフィードバックを加味したホイル=リットルトン降着半径のシミュレーション、そして、ホイル=リットルトン降着を加味したブラックホール近傍のシミュレーションを実施し、自己矛盾の無い理論モデルを構築する。
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