研究実績の概要 |
初期宇宙に小さなスケールの大きな曲率ゆらぎが崩壊して原始ブラックホールが作られる。本年度は以下の3点の研究が飛躍的に進んだ。Kohri and Terada, Class.Quant.Grav. 35 (2018) no.23, 235017において、宇宙初期のインフレーション終了直後の物質優勢期における原始ブラックホールの生成量を詳細に計算した。具体的に、その生成量は物質が崩壊して放射宇宙を作る際の再加熱温度の関数として与えられることを明快に示した。初期の曲率ゆらぎが小さくても、物質優勢期が長ければ、ゆらぎが成長することで原始ブラックホールへ崩壊し、十分な量の原始ブラックホールが作られることを考慮した点がたいへん新しい計算である。そうして生成された原始ブラックホールの連星の合体により、LIGOにより報告された重力波イベントを説明できること、また、原始ブラックホールがダークマターになる可能性があることを、独立なパラメータセットで実現可能であることを示した。Kohri and Terada, Phys.Rev. D97 (2018) no.12, 123532において、大きな曲率ゆらぎが二次的に生成する背景重力波の理論計算において、きわめて勘弁な公式を解析的に与えた。特に、輻射優勢宇宙と宇宙初期の物質優勢宇宙での、それぞれの場合について使える公式となっており、ユーザーにたいへん使いやすいものとなった。Yoo et al, PTEP 2018 (2018) no.12, 123 において、曲率ゆらぎと密度ゆらぎの間の無矛盾な非線形関係を用い、放射優勢宇宙でのブラックホールの生成条件を求めた。特に大規模構造形成のコミュニティでは標準的な手法となっているピーク統計の手法を用いて、原始ブラックホールのコミュニティーでは初の定式化を与えた。
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今後の研究の推進方策 |
「重力波の次世代観測を用いた原始ブラックホールと天体ブラックホールの区別」
連星ブラックホールの合体イベントの赤方偏移依存性を詳しく調べると、原理的に原始ブラックホール起源か、天体起源かを区別することができる。約30太陽質量あたりのブラックホールに着目する場合、原始ブラックホールは宇宙初期から存在するが、天体起源のブラックホールは赤方偏移が約40以下の宇宙でのみ作られることが知られているからである。つまり、将来、精度よい重力波実験でイベントの赤方偏移依存性が測られると原始ブラックホールの存在を検証できる可能性があるのである。将来衛星計画のPre-DECIGOが稼動すれば、赤方偏移15以上の観測となり区別が可能となる [T.Nakamura et al,2017]。しかし、PopⅢ星の形成の理論にはゆらぎの性質と関係した未定の問題を多く含んでおり、ゆらぎの起源の理論整備も同時に進める必要がある。ゆらぎの非ガウス性が大きい場合、Pop Ⅲ星の形成時期が大幅に早まる可能性がある[Koushiappas and Loeb, 2017]。その場合、PBH起源と天体起源の連星ブラックホールの区別はより難しくなる。ゆらぎの非ガウス性を考慮したPop Ⅲ星の形成の解析を行い、PBH説との区別のための理論整備を行う。また、いくつかのインフレーション理論はゆらぎの非ガウス的な分布を予言することが知られている。インフレーションモデルに依存して、天体起源説と原始ブラックホール説の両方が影響を受けることになる。両者をはっきりと理論的に区別する枠組みを整え、将来観測によりインフレーション理論を検証し、その基礎となる素粒子理論の新理論の情報を得るための理論整備の完了を目標とする。
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