仔育て中の母マウスを用いて養育行動や居住域への侵入者に対する攻撃行動の発現を制御する化学コミュニケーションに関する研究を行った。母マウスは自分の仔以外の幼若仔を養育する一方、ある日齢を過ぎた個体を攻撃するようになる。まず初めに行動が養育から攻撃に代わる幼若個体の日齢を特定した。この時期がおよそ離乳期に当たるため、離乳に伴う食の変化の影響を検討したが、食の変化は攻撃の誘導性に影響しなかった。次に性差や系統差を検討し、母マウスの攻撃を誘起する他個体の性質として、性差は関係せず系統差が影響することがわかった。母マウスの攻撃行動は鋤鼻器を除去することで消失することから、侵入者が発するフェロモンによって攻撃が誘起されると考えられる。そこで侵入者のどこからフェロモンが発せられるのか検討したところ、尾部周辺に由来することが分かった。 次に侵入者のフェロモンを受容した後に攻撃が誘起される母マウスの神経機構を解析した。まず背側縫線核に入力するグルタミン酸作動性神経に着目し、グルタミン酸シグナルが攻撃行動の発現に必要で、養育行動には抑制的に作用することがわかった。またそのグルタミン酸シグナルは内側前頭前皮質や外側手綱核に由来する可能性が示唆された。そこで内側前頭前皮質からの入力の関与を調べたところ、攻撃行動の発現に必要であることがわかった。 さらに背側縫線核における養育行動の制御機構を解析した。その結果、養育行動の発現に副腎皮質刺激ホルモン放出因子による制御が必要であることが明らかになった。また低エネルギー状態での養育行動の発現に背側縫線核のオキシトシンシグナルが必要であることがわかった。
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