化学コミュニケーションのフロンティア領域の公募研究として研究期間2年目の計画を推進した。この課題では、細菌と感染に関わる宿主側のタンパク質翻訳後修飾であるS-グアニル化に着目している。S-グアニル化を受けたタンパク質がオートファジー分解を受けることから、これを逆に応用して、特定の細胞内タンパク質の選択的分解につなげる検討を行っている。 細胞内のタンパク質に高選択的に作用する分子素子として、医薬品として長い実績がある天然有機化合物(天然物)がある。そこで、S-グアニル修飾の人工誘導体合成を引き続き進めるとともに、天然物と結合させたbi-valent分子を調製して、標的の減少がみられるかを調査した。これらの成果を関連の研究成果と合わせて2019年秋にMol Cell誌で発表した。現在、創薬研究において、疾患原因物質の分解を促進するデグレーダーが関心を集めているが、我々の成果もAltmetrics 140に達するなど、top 10%以内の高い国際的注目を得た。
このように天然物の用途開拓という視点で2年間の研究してきたが、天然物自体を合成原料として新分子を設計すると、頻繁に供給元、供給量などの問題が顕在化した。また、標的タンパク質との特異的結合が明確になっている天然物の種類に限りがある。このことから今後は、基本的な研究方針を維持しつつも、標的化素子のソースとして天然物類似の構造を持つ合成分子も排除しない方がよいと考えられた。
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