研究領域 | 化学コミュニケーションのフロンティア |
研究課題/領域番号 |
18H04612
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小鹿 一 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (50152492)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 疫病菌 / Phytophthora / 無性生殖 / 阻害物質 |
研究実績の概要 |
疫病菌は重要農業病害の原因菌の一つで、その被害額は年間数十億ドルと言われる。その急速な被害の拡大は無性生殖で形成される多数の遊走子によるものであり、無性生殖の選択的阻害は耐性を誘導しにくい疫病菌制御に繋がる。野菜ジュースから発見したlycoside類はこのような作用を有する新規物質で、これまでにトマトが真の生産者であることを見出した。 当該年度は、lycoside類の効率的な取得を目指して、ナス科植物を中心に様々な野菜のlycoside含量をLC/MS分析により調査した。その結果、lycoside類はトマトとジャガイモ(茎葉)のみに含まれることが判明した。また、マルトース配糖体であるlycoside A, Bはトマトの果実のみに含まれるのに対し、グルコース配糖体はトマト、ジャガイモ地上部全体に含まれていた。しかし、これらの含量は低く、今後の研究の展開には不十分であった。そこで活性を保持しているアグリコンの化学合成を開始し現在、継続中である。 一方、lycoside類以外の疫病菌無性生殖阻害物質の探索も進めた。文献上、このような生物活性物質はほとんど例がないが、ダイズイソフラボンの一種ゲニステインにこのような活性が報告されていたことから、我々のスクリーニング系で確認したとところlycoside類に匹敵する高い活性が観測された。そこで他のフラボノイド4種類について活性を比較したとこと僅かな構造の違いで活性が大きく異なることを見出した。更なる構造活性相関研究を継続中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では、(1)活性物質の精製と化学的解析、(2)活性物質の生産者の特定、および(3)生物活性評価を目的とした。 (1)に関しては、疫病菌の培地V8 野菜ジュースから、既に発見した阻害物質lycoside Aの類縁体lycoside B, D, Dを精製し、絶対立体構造の決定に成功した。(2)に関しては、最初に発見したV8 野菜ジュースの原材料野菜を個別にLC/MS で分析し、トマトが真の生産作物であること、品種間で含量に大きな差があること、トマト茎葉部やジャガイモ地上部にも含まれることを明らかにした。ただ、当初期待したlycoside類を多量に含む材料を見出すことはできなかった。(3)に関しては、疫病菌Phytophthora capsici を検定菌に用いて構造活性相関を調べた結果、アグリコンが天然物に匹敵する活性を保持していることを見出したため、アグリコンの化学合成を開始した。合成が達成できれば、予定していた疫病菌-宿主植物感染系を用いたin vivo 試験を行い、有効性を確認できると期待される。 以上の結果を踏まえ、研究はほぼ予定通り進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本化合物の活性評価の発展として、代表的な5種の農業病害菌(イネいもち病菌など)への汎用性を検討する。また、更なる構造活性相関として、lycosideアグリコンおよび類縁体を化学合成し活性を調べる。次いで、作用機序研究の一環としてLycoside類の処理による遺伝子発現変動解析を行い、どのような分子が疫病菌無性生殖阻害活性に関与しているか解析する。さらに応用展開として、疫病菌感染植物を用いたin vivo試験で有効性を確認する。
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