本研究は、有機合成化学を基盤としたケミカルバイオロジー研究からのアプローチにより腸管免疫における化学コミュニケーションの理解と制御を目指したケミカルツールの創製を目的としている。本年度は、腸管免疫において重要な役割を担うセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)を制御する化合物とmucosa-associated invariant T(MAIT)細胞の活性化剤の創製に注力した。 (1)腸管免疫に関わる酵素として、SPTに着目し、その阻害剤探索を指向した合成研究を行った。特にスフィンゴシン類縁体myriocinに着目し、昨年度までに開発した遠隔位C-H結合官能基化を鍵反応として用いた効率的合成経路の最適化を行った。その結果、既知化合物より11工程で、myriocinを合成することに成功した。 (2)MAIT細胞の活性化剤として知られる微生物代謝物5-amino-6-D-ribityluracil(5-A-RU)の構造展開を見据えた合成経路の確立を行った。5-A-RUのポリオール部位について、グルコースやガラクトースなどの単糖を出発物質とした光酸化還元触媒を用いたアルコキシラジカルのβ開裂反応を鍵反応として合成する検討を行った。その結果、中程度の収率で目的の反応が進行する条件を見出した。 (3)MAIT細胞を活性化する5-A-RUの構造活性相関研究を行った。特にポリオール部位の構造展開を行い、活性発現に重要な部位を同定した。
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