研究領域 | 化学コミュニケーションのフロンティア |
研究課題/領域番号 |
18H04620
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
下山 敦史 大阪大学, 理学研究科, 助教 (90625055)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | リピドA / 共生菌 / 腸管免疫 / ケミカルエコロジー / ケミカルコミュニケーション / アジュバント / リポ多糖 |
研究実績の概要 |
研究代表者は、細菌成分リポ多糖(LPS)の活性中心である糖脂質リピドAの活性が細菌の特徴を深く反映していることを明らかにしてきた。例えば、寄生菌ピロリ菌のリピドAは、急性炎症を阻害しつつ慢性炎症誘導活性を示し、この作用により、寄生菌は免疫系から逃れつつ、慢性炎症性疾患を誘発させている可能性が示された。腸内共生菌においても共生関係構築の鍵となる恒常性維持機能をLPS・リピドAが有すると考え、恒常性維持に関与する腸管上皮組織パイエル板の細胞内に共生しているAlcaligenes faecalis由来LPSの構造解析・合成・機能解析研究を開始した。これまでに、共生菌LPSが腸管免疫制御の鍵化合物であることを見いだしており、さらには、A. faecalis由来LPSの単離と構造決定にも成功している。 2018年度は、A. faecalis由来の1, 4’位ジリン酸リピドAおよびアシル鎖パターンの異なる類縁体の合成を世界で初めて達成した。現在、ヒト単核球を用いたin vitro試験を行い、誘導サイトカイン量をELISA法により定量することで、免疫活性化作用の評価を進めている。炎症惹起の指標となるサイトカインIL-6の誘導活性を評価したところ、共生菌リピドAは大腸菌LPSよりも弱い活性を示した。また、共生菌リピドAの特徴的化学構造である脂質部の水酸基を欠いた類縁体の合成にも取り組んでおり、2019年度中に合成を完了する予定である。さらには、細菌特有の構成糖KdoとHepを含むリピドAの合成に取り組んだ。2018年度は、マンノースを原料としてHep二糖骨格を構築することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は、以下の研究項目に取り組んだ。 (I)共生菌リポ多糖部分構造の化学合成:研究代表者はこれまでに、様々なリピドA合成に適用可能な二糖中間体をデザインし、1位モノリン酸リピドAの系統的合成に適用してきた。本研究においては、共生菌由来1, 4’位ジリン酸リピドAの合成へこの二糖中間体を初めて適用した。2018年度は、共生菌由来1, 4’位ジリン酸リピドAおよびアシル鎖パターンの異なる類縁体の合成を達成した。また、共生菌リピドAの特徴的化学構造である脂質部の水酸基を欠いた類縁体の合成も進めており、これは2019年度中に合成を完了させる。また、LPSに含まれる細菌特有構造の系統的合成にも取り組んだ。具体的には、細菌特有の構成糖KdoとHepを含むリピドAの合成に取り組んだ。2018年度は、マンノースを原料にHep二糖骨格を構築することに成功した。 (II)生物活性を基盤とした化学コミュニケーションの理解:合成した共生菌リポ多糖部分構造ライブラリーの生物活性評価を行った。ヒト単核球を用いたin vitro試験を行い、誘導サイトカイン量をELISA法により定量した。炎症惹起の指標となるサイトカインIL-6の誘導活性を評価したところ、共生菌リピドAは大腸菌LPSよりも弱い活性を示した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下の研究項目に取り組む。 (I)共生菌リポ多糖部分構造の化学合成: 2018年度までに、共生菌由来1, 4’位ジリン酸リピドAの合成を達成した。今後は、確立した合成経路を応用することで、共生菌リピドAの特徴的化学構造である脂質部の水酸基を欠いた類縁体の合成を行う。また、LPSに含まれる細菌特有構造の系統的合成にも取り組む。具体的には、細菌特有の構成糖KdoとHepを含むリピドAの合成を目指す。2018年度までに、Hep二糖骨格を構築することに成功しており、2019年度は、Hep二糖骨格構築法を最適化するとともに、Kdo骨格構築法を確立する。 (II)生物活性を基盤とした化学コミュニケーションの理解:合成した共生菌リポ多糖部分構造ライブラリーの生物活性評価を行う。ヒト単核球を用いたin vitro試験を行い、誘導サイトカイン量をELISA法により定量することで、炎症惹起作用を評価する。 (III)物性を基盤とした化学コミュニケーションの理解:2018年度までに、リピドAと様々な生体膜成分を混合した場合、リピドAの活性にどのような影響を与えるか、解析を始めており、リピドAの機能を阻害するものや相乗的に高めるものなど、いくつかの内因性リガンドを見いだしつつある。2019年度はこの解析をさらに進める。具体的には、リピドAを含むリポソームや凝集体の作成を検討し、生体膜成分とリピドAにより構成される複合体の解析に挑む。 (IV)共生菌 LPSの単離・構造解析:2019年度中に、線維化A. faecalisとA. xylosoxidans由来LPSの同定を試みる。単離したLPSを強塩基による脱アシル化の後、ゲルろ過で精製し、NMR及びGCMS解析により糖鎖部分の構造を決定する。続いて、酸処理によりLPSからリピドAを切り出し、質量分析とGCMS解析により、リピドAの化学構造を同定する。
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