研究領域 | 化学コミュニケーションのフロンティア |
研究課題/領域番号 |
18H04621
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
山下 敦子 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 教授 (10321738)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 味覚受容体 / 結晶構造解析 / 示差走査蛍光測定法 |
研究実績の概要 |
解析対象としている味覚受容体T1r1-T1r3について、アゴニスト同定のための機能解析を実施した。まず、示差走査蛍光測定法のリガンド結合解析系としての適用可能性を確認するため、研究代表者らによる構造機能解析が進展しているメダカT1r2a-T1r3細胞外味物質認識領域試料を用いて、すでに結合を確認しているアミノ酸の結合解析を行ったところ、これまでの解析結果と一致する結果が得られたことから、同法がT1rタンパク質の味物質結合解析系として有効であることを確認した。そこで、T1r1-T1r3細胞外味物質認識領域試料を調製して同様の解析を実施したところ、同試料に対し幅広いアミノ酸が結合を示すことを明らかとした。さらに、共同研究により、全長受容体も幅広いアミノ酸に対して応答を示すことを確認し、同受容体が基質特異性の広いアミノ酸受容体であることを明らかとした。また、蛍光タンパク質融合体を用いたFRET解析に向けた予備的解析として、蛍光タンパク質の蛍光特性解析を実施した。 さらに、構造解析を目的としたT1r1-T1r3細胞外味物質認識領域発現コンストラクトの改善を行い、受容体への変異導入および精製タグ付加位置の変更により、発現量を大幅に上昇するコンストラクトを見出した。このコンストラクトを用いた大量発現系を構築し、発現・精製を行って、結晶化条件の探索を行った結果、柱状結晶が得られる条件を複数見出した。X線回折実験を行った結果そのうちの1つの結晶から、タンパク質結晶と考えられる回折点を確認した。 また、得られた構造情報をヒトのうま味受容の理解につなげる解析に着手するため、すでに解明されているメダカT1r2a-T1r3LBD構造を用いて、ヒトやマウスのT1r1-T1r3味物質認識領域のアミノ酸結合状態のホモロジーモデリングを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、甘味やうま味の受容を担うTaste receptor type 1 (T1r)による受容体-味物質分子間シグナリングの構造基盤解明を目的に、構造未解明のT1r1-T1r3の構造決定を目指した研究である。研究開始時には、良好に発現するT1r1-T1r3細胞外味物質認識領域遺伝子種を見出していたものの、ヒトなど受容体機能解析が進展している動物種由来でない遺伝子であったため、解析を進める上で必須の情報であるアゴニストが同定されていなかった。また、味物質認識領域の組換え発現系は構築していたが、発現量が低く、広範な結晶化条件探索に至っていなかった。 H30年度には、研究計画の全ての項目において目標を達成し、上述の問題点を全て解決した。具体的には、解析対象としているT1r1-T1r3が、基質特異性の広いアミノ酸受容体であることを明らかとした。この過程では、当初計画していた蛍光Ca2+指示薬を用いた受容体応答解析で期待するような蛍光変化を検出できないという問題に遭遇したものの、スループット性の高い示差走査蛍光測定法を導入することで、まず細胞外味物質認識領域を用いた結合解析で同受容体のアミノ酸結合能を明らかにした。さらに発光法による細胞内Ca2+濃度変化解析系を確立している研究者との共同研究により、全長受容体のアミノ酸応答能を確認できた。ついで、T1r1-T1r3味物質認識領域の組換え発現系の改善を行い、発現量を大幅に向上し、タンパク質結晶と考えられるX線回折を示す結晶が得られる新たな結晶化条件を見出した。残念ながら得られた結晶のサイズが小さく、H30年度内には構造決定に至らなかったものの、結晶が再現でき、結晶サイズや結晶数の改善ができれば、十分に構造決定可能な質のものである。 以上から、本課題は目的達成が期待できる段階に到達しており、順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
まずはH30年度に得られた発現・精製・結晶化条件を最適化し、T1r1-T1r3細胞外味物質認識領域の結晶構造決定を目指す。構造解析では、すでに構造が明らかなメダカT1r2a-T1r3味物質認識領域構造を利用した分子置換法で構造決定可能と推測されるため、良質な結晶が得られれば、迅速な構造決定が行えるものと考えられる。構造解析系が確立できれば、H30年度に同受容体のアゴニストとして同定した様々なアミノ酸結合状態での構造解析を行う。 また、H30年度に確立した示差走査蛍光測定法による結合解析系を用いて、T1r1-T1r3味物質認識領域に結合する他のリガンドを探索する。リガンドが同定されれば、共同研究により受容体応答に対する作用を確認する。特に、応答阻害や応答増強を示す物質など、アミノ酸と作用が異なる物質が見つかれば、それらの物質が結合した状態での構造解析を実施する。 また、ヒトやマウスのうま味受容体T1r1-T1r3味物質認識領域のホモロジーモデルを用いて、これらの受容体の基質特異性を決定する構造要因を解析する。 得られた構造機能情報を統合し、T1r1-T1r3受容体のリガンド認識機構ならびに作動機構を解明する。さらに、これまでに得られているT1r2-T1r3受容体の構造機能情報と比較し、T1r受容体としての共通性と多様性を明らかにして、T1r受容体―味物質分子間シグナリングの構造基盤を解明する。
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