研究領域 | 化学コミュニケーションのフロンティア |
研究課題/領域番号 |
18H04626
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
高橋 栄夫 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 教授 (60265717)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | NMR / アロステリック制御 / リガンド結合 / 構造変化 |
研究実績の概要 |
本研究では、ヒト疾患およびアロステリック調節薬開発に関わるflip型のAMPAR-LBDを対象とした研究を進めている。これまでのAMPAR研究において薬理活性を変調するLBD領域の変異体が見いだされてきているが、そのLBDの結晶構造(静的構造)からでは薬理活性変化の理由を説明することが困難なものがあることから、NMR法を活用した動的構造の見地より検証を行った。その中でT686変異体については、結晶構造では野生型、T686変異体で構造が同一であるにも関わらず、化学シフト解析や緩和解析結果より、LBD界面に複数の構造状態間の平衡が存在し、変異に伴う存在比率の変化が示唆された。また、水素交換実験による比較解析結果から、LBDにはサブドメイン間水素結合が形成された構造状態と、形成されていない構造が存在し、これらの構造間の平衡の変化がチャネル活性に影響していると考えられた。さらに、partial agonistであるカイニン酸結合状態における薬理活性を増大させるL650T変異体について、野生型との比較NMR解析も行った結果、結晶構造に反映されていないサブドメイン間水素結合が形成されていることが示唆され、それにより薬理活性が高められていると推察された。これらの結果は、原子レベルで化学シグナル伝達の理解を深めるうえで、静的な立体構造情報のみならず、構造平衡状態などを考慮した視点で活性を捉えるべきであることを示唆しており、化学コミュニケーションを変調させる機能性分子を創製していくうえで、標的分子の動的構造の視点が重要であることを示しているといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初目的としていた、結晶構造からは説明できない、変異に伴う薬理活性の変調メカニズムの一端をNMR解析により解明することができたと考えている。また、化学シグナル伝達分子の一残基変異が、分子の広範な領域に影響をもたらす実態をNMRにより検出することができた。次年度以降、このような動的分子内構造変化を介した分子内シグナル伝達メカニズム、さらには、アロステリック調節薬の作用メカニズムについて解析していくための基盤が整ったと考える。
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今後の研究の推進方策 |
AMPARに作用するアロステリック調節薬は、LBDの二量体化を推進すると考えられている。二量体化LBDは分子量5万を超える高分子量となるため、高感度である側鎖メチル基を活用したNMRアプローチを中心とした解析を実施する。さらに二量体間の相互作用を高めるため、LBD二量体発現系の構築についても検討する。
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