公募研究
温暖化によって植物と昆虫の相互作用バランスが崩れる中、新規害虫防除システムの開発および生態系保全を目指した、多様な害虫種に対する植物の防御応答メカニズムの解明が必要がある。本研究では、温暖化によって東北以北での発生が問題視されつつある重要害虫「ハスモンヨトウ」および急速に農薬抵抗性を獲得する難防除害虫「ナミハダニ」が分泌するエリシター(植物の防御応答を誘導する因子)の植物認識・応答機構を理解することで、植物の潜在的な防御能力を高めるための学術基盤を構築することを目指した。ナミハダニの唾液腺で発現するテトラニン(Tet1、Tet2)はインゲンマメ葉の防御応答を誘導するエリシターであることが明らかにされた。Tet1およびTet2が処理されたインゲンマメでは、ハダニの産卵数の低下や致死率の向上が促され、さらにハダニの天敵であるチリカブリダニを誘引する能力が向上することが示された。これらの防御形質の誘導には、Tet受容後の細胞膜の脱分極、活性酸素類の生産、植物ホルモンの生産誘導、防御遺伝子発現の誘導等の細胞内シグナル伝達ネットワークの活性化が関わることが示唆された。一方、咀嚼性害虫であるヨトウガ幼虫の吐き戻し液(OS)には、未同定のオリゴ糖エリシターが含まれる。我々は、このOS内に含まれるオリゴ糖エリシターの応答に関与する、細胞外領域にロイシンリッチリピート(LRR)およびproline-rich sequenceをそれぞれ持つダイズ受容体キナーゼ(GmHAK1とGmHAK2)およびシロイヌナズナ受容体キナーゼ(AtHAK1)を同定した。AtHAK1は受容体様細胞質キナーゼPBL27と協調的にエチレンシグナルを活性化することでシロイヌナズナの防御応答を活性化する分子モデルが提唱された。
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