研究実績の概要 |
生物は自らを維持し環境に適応するため、低分子化合物を介した生体内外での情報コミュニケーションを行う。そのため、生物の生存や環境適応に関わる低分子化合物の生体内機能を解明するためには、低分子化合物と情報コミュニケーションをとるタンパク質がどのようなものか知る必要がある。しかしながら、生体内に膨大に存在する化合物の種類や量を鑑みると、低分子化合物と相互作用するタンパク質研究は未だ不十分と言わざるを得ない。我々のグループは、これまで一般的に利用されてきたファージディスプレイ法と次世代シーケンス技術と組み合わせた手法(PD-Seq法)を開発し、低分子化合物と結合するタンパク質探索に適用させることで、低分子化合物と結合するタンパク質の種類を大きく向上させることに成功してきた。これら独自技術を利用することで、低分子化合物と結合するタンパク質を網羅的に同定し、生体内での低分子化合物機能解明、特にフラボノイドに着目した研究を進めた。野菜や果物に多く含まれているフラボノイドは、がん予防医学において大いに期待されている化合物である。特に、フラボノイドの一種であるケンフェロールは、様々なシグナル伝達経路に関与して抗がん作用示すことが報告されている。本研究では、PD-Seq法を用いて、ケンフェロールとその配糖体であるアストラガリンに結合するペプチドの網羅的探索を行った。興味深いことにケンフェロールから回収されたアミノ酸配列が35種にすぎなかったのに対して、アストラガリンから回収されたアミノ酸配列は2,000種にも及んでいた。この結果は、配糖体に結合するアミノ酸の種類が多いことを示しており、フラボノイド、少なくともケンフェロールでは糖鎖付加などの修飾が化学コミュニケーションの鍵となる可能性を示している。
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