研究実績の概要 |
結核菌細胞壁脂質のマクロファージに対するネクローシス誘導のメカニズム解明に向けて、原因物質とみなされるフチオセロールジマイコセレート(PDIM)およびその構成成分であるマイコセロシン酸とフチオセロールのスケールアップ合成を行っている。現在までに、マイコセロシン酸とフチオセロールは数百ミリグラムずつ合成した。また、もう一つの結核菌毒性細胞壁脂質とみなされているPGL-tb1の全合成を達成した(論文準備中)。本合成では、PDIMの合成経路に則り、マイコセロシン酸の合成およびフチオセロールの中間体からの末端アセチレン誘導体を合成し、三糖が付いたヨードベンゼンと薗頭カップリングで接続することにより、三糖が付いたフチオセロール誘導体を合成した。このフチオセロール誘導体とマイコセロシン酸の縮合によってPGL-tb1の全合成を完了した。 さらに、 PDIMの合成研究で見出した、立体選択的プロトン化を実現する嵩高いプロトン化剤である2-アルキルベンズイミダゾールを用いて、天然物合成によく使われるγ-ラクトンとδ-ラクトンの短工程合成に成功した(Tetrahedron Letters, 60, 411, (2019))。本研究では、嵩の低いアルキル鎖を有するα,β-不飽和イミドのBirch還元におけるプロトン化では2-イソプロピルベンズイミダゾールが有効であり、α,β-不飽和イミドのβ,γ-不飽和イミドへの異性化反応におけるプロトン化では2-メチルベンズイミダゾールが高立体選択的に生成物を与えることを見出した。加えて、この立体選択的プロトン化を利用して抗がん物質PM1163Bの全合成を達成した(Syntlett, 30, 709, (2019))。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既に報告しているPDIM Aの全合成経路(Organic Letters, 18, 132 (2016)、Chemistry Letters, 45, 550 (2016))に則り、マイコセロシン酸とフチオセロールは数百ミリグラムずつ合成した。また、PGL-tb1の全合成も達成し、現在は論文作成のための各合成中間体のスペクトルデータの採取を進めている。これについても、数百ミリグラムからグラムスケールのスケールアップ合成を行っているが、再現性はとれており、特に困難な箇所は無い。現在、フチオセロールの蛍光標識体の合成にもとりかかっている。また、これらの化合物の合成研究途上見出した、嵩高いプロトン化剤としての2-メチルベンズイミダゾールによる立体選択的なプロトン化反応が、他の化合物の合成にも応用できることもわかっており、他の生物活性物質の合成研究への展開を進めている。
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