研究領域 | 化学コミュニケーションのフロンティア |
研究課題/領域番号 |
18H04633
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
清宮 啓之 公益財団法人がん研究会, がん化学療法センター 分子生物治療研究部, 部長 (50280623)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | グアニン四重鎖 / テロメア / 天然化合物 / バイオプローブ / オミクス解析 / ケミカルツール分子 |
研究実績の概要 |
反復性グアニンが形成する四重鎖核酸(G4)は、ゲノム上のテロメアや遺伝子プロモーター領域などに多く存在するといわれている。G4動態を人為的に制御する技術としては、放線菌由来テロメスタチンなどのG4安定化物質(G4リガンド)が有用である。G4リガンドは創薬シーズとしても有望であり、我々はテロメスタチンやその誘導体が神経膠芽腫の腫瘍増殖を抑制することを報告してきた。本研究は、G4リガンドに対する細胞応答を系統的に解析することで、G4の機能的意義の理解を目指す。2018年度の研究実績として、まず、G4リガンドの細胞パネル増殖阻害プロファイルを取得し、網羅的相関解析を行ったところ、既存の抗がん剤と顕著な類似性は認められず、新しい作用点の存在が示唆された。興味深いことに、G4リガンドで増殖が抑制される細胞株はDNA損傷応答を呈するものと呈さないものに大別された。そこで、G4リガンドが誘起するDNA損傷以外の作用として転写・翻訳への影響を検証した。G4形成・非形成配列を5’非翻訳領域に組み込んだルシフェラーゼ・レポーター遺伝子の転写・翻訳に対するG4リガンドの影響をin vitroで調べたところ、G4形成配列を含むレポーターの転写・翻訳のみがリガンドの濃度に依存するかたちで抑制された。さらに、網羅的遺伝子発現解析および我々が独自に構築・拡充したプロファイリングデータベースを用いた各種パスウェイ解析を実施し、G4安定化によって直接発現制御を受けていると予想される候補遺伝子群を同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではG4リガンドに分類される複数の異なる化合物を実験に用いているが、化合物にはそれぞれ固有のオフターゲットも存在することが予想され、それらによるノイズ(オフターゲット効果)が大きい場合はG4リガンドとしての共通のプロファイルを描出することが困難である可能性もあった。しかし、テロメスタチンおよびその誘導体、さらにはテロメスタチンと構造も由来も全く異なるタイプのG4リガンド(Phen-DC3)といった複数の化合物について解析を行った結果、これらの共通項となる遺伝子発現変動パターンを見出すことができた。このプロファイルはG4リガンドとしてのオンターゲット効果に由来するものと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、テロメスタチン誘導体、および母核構造の異なるその他のG4リガンドを処理した細胞について、G4および核内DNA損傷フォーカスの定量解析、GeneChipマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析および変動パスウェイ解析、プロテオーム解析による翻訳変動シグネチャーの取得を行い、G4の安定化に伴う細胞内応答パターンを包括的に捉えた多層データベースの拡充を図る。また、細胞パネルに対する各種G4リガンドの増殖阻害効果を調べる。これらのデータをもとにCOMPAREアルゴリズムによる網羅的相関解析などを実施することで、バイオプローブとしての一連のG4リガンドの作用点を予測・評価する。さらに、テロメスタチンをはじめとする種々のG4リガンドに共通の細胞内標的候補部位をゲノムおよび転写物のレベルで同定・検証する。G4リガンドの直接の標的であることが確認された遺伝子群について、アノーテーション情報から生物学的重要性の順位付けを行う。上位にランクされた標的遺伝子の発現もしくはG4形成配列を分子生物学的手法によって修飾もしくは改変し、細胞形質(増殖・形態変化や上述の検討で明らかにされた細胞内経路など)に与える影響を明らかにする。これらの複合的検討により、G4の機能的意義を明らかにする。
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