研究領域 | 分子合成オンデマンドを実現するハイブリッド触媒系の創製 |
研究課題/領域番号 |
18H04640
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
田村 正純 東北大学, 工学研究科, 助教 (10635551)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 触媒・化学プロセス / 不均一系触媒 |
研究実績の概要 |
均一系触媒に比べ、不均一系触媒である固体触媒を用いた不斉合成反応の例は非常に限られており、さらに、不斉合成をワンポット反応に組込んだ報告例はほとんどない。本研究では、キラル配位子を活性金属ではなく担体である金属酸化物に酸・塩基相互作用により導入し、活性金属周辺に集積させることで、固体表面に新規不斉反応場を形成することを目指す。さらに、金属酸化物の酸・塩基機能と不斉水素化を組み合わせたワンポット合成反応を実現する。 本年度の検討では、固体触媒表面での不斉反応場の形成に有効な触媒系の構築検討として、アセトフェノンの水素化反応をモデル反応に用い、様々な固体触媒と不斉配位子の組み合わせを検討した。その結果、イリジウムを酸化セリウムに担持させたIr/CeO2触媒に不斉配位子としてアミノ基と水酸基を有するビナフチル化合物であるNOBIN(2-amino-2'-hydroxy-1,1'-binaphthyl)を組み合わせた場合に、比較的高いエナンチオ選択性が発現することを明らかにした。各種反応条件(キラル配位子導入量、水素圧、基質濃度、溶媒の種類など)やイリジウム金属担持量や触媒前処理条件について検討を行った結果、溶媒の選定が活性やエナンチオ選択性に大きな影響を与えることが明らかになり、最も有効であった2-プロパノールを溶媒として選択した。また、触媒還元前処理条件も重要であり、還元後、酸素での不動態化(パッシベーション)処理がee発現に最も適した条件であることも見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
貴金属微粒子担持セリウム触媒に各種不斉配位子を添加することで、固体触媒上に不斉反応場を形成可能かについて検討を行った。モデル反応としてアセトフェノンの水素化を用い、触媒反応試験は回分式反応器を用い、水素加圧下で行った。各種金属種、キラル配位子の組み合わせを検討した結果、イリジウムを酸化セリウムに担持させたIr/CeO2触媒に不斉配位子としてアミノ基と水酸基を有するビナフチル化合物であるNOBIN(2-amino-2'-hydroxy-1,1'-binaphthyl)を組み合わせた場合に、エナンチオ選択性が発現することが確認できた。そこで、Ir/CeO2+NOBIN触媒系を用いて、各種反応条件(キラル配位子導入量、水素圧、基質濃度、溶媒の種類など)検討を行った結果、溶媒の種類によって活性、エナンチオ選択性が大きく変化することがわかっており、比較的高いエナンチオ選択性(~30% ee)を示した2-プロパノールを最適溶媒として選定した。金属表面状態を変化させるために、触媒前処理条件、金属担持量の影響についても検討した。触媒還元前処理条件は活性、エナンチオ選択性に大きな影響を与ることが明らかとなり、還元後、酸素で不動態化(パッシベーション)処理を行うことで、適度な活性とeeが発現することがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
現状、Ir/CeO2にNOBIN(2-amino-2'-hydroxy-1,1'-binaphthyl)を組み合わせた触媒系が最も高いエナンチオ選択性を示すことがわかっている。しかし、eeが30%程度と不斉反応場としては不十分である。そこで、本年度では、本触媒系のより高いエナンチオ選択性を実現できる不斉反応場の構築を目指す。まず、不斉配位子の構造を変化させることによるeeの変化について検討を行う。配位子に関しては北海道大学の吉野先生と協力しながら、検討を進めていく。特に、キラル配位子を立体的に嵩高くすることで、より精密な不斉反応場が構築されうると考えられるため、NOBINに置換基を導入した配位子の検討を優先的に行っていく。また、ワンポット反応に関する検討も進める。酸化セリウムは塩基性が比較的高い金属酸化物であるため、アルドールやマイケル付加などの塩基触媒反応と水素化を組み合わせたワンポット反応系への展開についても模索する。触媒系の活性点構造の解析も行う。キャラクタリゼーションとしては、昇温水素還元(TPR)、XRD、CO 吸着のFTIR、ラマン分光法、XANES+EXAFS(SPring-8)、TEM、NMR、XPS などの方法を用い行い、導入したキラル配位子がどのように金属酸化物表面に吸着し、不斉反応場を形成しているかについて、その詳細解明を目指す。
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