拡張π共役有機化合物は、その特異な電子的・光学的性質から、有機材料の分野において幅広く応用が期待されている。しかしながら、既存の合成方法および効率の観点から見ると実用レベルに達している例は非常に少なく、アクセス可能な分子骨格についても未だに大きな制限がある。したがって、拡張π共役化合物を扱う様々な分野においてブレークスルーをもたらすには、新たな分子設計と革新的な高効率合成法の開発が急務である。申請者らは近年、遷移金属錯体を触媒とした新規反応の開発により、従来法ではアクセスできない新しい拡張π共役化合物の効率的合成に成功している。しかし、これまで用いてきた反応単独では合成できる化合物の構造に制約があり、さらなる発展には新たな切り口による飛躍が必要である。このような背景のもと、本年度における研究では、昨年度の成果を踏まえて、申請者らが開発したロジウム触媒による縫合反応とそれに引き続く酸触媒による共役型の求核置換反応を組み合わせることにより、従来法ではアクセスが困難であった、多置換フルオレン誘導体を温和な条件下、3成分から一挙に合成する手法の開発に成功した。また、新しい形式でのパラジウム触媒の転位を含むカスケード型の反応によるベンゾフェナントロシリン類の新規合成法の開発についても成果をあげた。これらの化合物はいずれも発光性有機材料の母骨格としての利用が期待されており、今回開発した合成手法は、関連する分野に大きな進歩をもたらすものと言える。
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